客単価を上げる方法|旅館が食材を変えずに単価を上げる
「今すぐ客単価を上げたい。でも、新メニューの開発や設備投資のリスクは取れない」。
これは、料理に力を入れている宿ほどよく持っている悩みです。
宿泊プランの組み方を変えて客単価を上げる方法は別の記事で扱いました。
この記事は、もっと手前の話です。
すでに使っている地元食材だけで、追加の手出しなしに客単価を上げるやり方を扱います。
「価値」は、食材そのものでは決まらない
やることは一言でいうと、既存メニューの価値を上げることです。
「価値を上げる」と聞くと、良い食材に変えることだと思われがちですが、違います。
そもそも、価値とは誰が決めるものでしょうか。
たとえば、なんてことのない白い大きめのTシャツがあったとします。
いくら出しますか。欲しい人は500円くらいで買うかもしれませんが、多くの人は買いません。
必要としていないし、価値を感じていないからです。
ですが、そのTシャツが有名選手が着ていた一枚だったらどうでしょうか。
急に気になってきます。同じTシャツなのに、話を聞いたあとで価値が変わったわけです。
食材でもまったく同じです。同じ食材、同じメニューでも、
見せ方と伝え方を変えるだけで価値は大きく変わります。
もう一つ、身近な例を出します。
- スーパーで売っている、少しいいトマト
- **「祖父が50年間守り続けてきた種から作っています。
他のトマトに比べて、少し甘いのが特徴です」**と農家の方から直接買うトマト
まったく同じトマトでも、後者に価値を感じるはずです。
作り手の思いが見えると、つい買いたくなる。高くても手に入れたくなる。
これを宿でやります。
地元食材そのものを売るのではなく、その食材に込められたストーリーを売る。
そうすることで、追加投資ゼロで客単価を上げられます。
実例|プランの一文が「地元の新鮮な野菜を使用」だけだった旅館
ある旅館の事例です。もともとは財務まわりのご支援でお手伝いしていましたが、
マーケティングの目線で見ると、まだ客単価を上げられる余地がありました。
というのも、地元の食材にこだわりがあるのに、
宿泊プランには「地元の新鮮な野菜や漬物を使用」というシンプルな一文だけだったのです。
せっかくの良い食材なのに、お客様がその凄さを分かっていない。
ここに、はっきりともったいなさがありました。
ご提案した中から、次の3つを実施しました。
施策1|メニューに、生産者のストーリーを載せる
単品メニューに、料理の写真だけでなく、その食材を育てた生産者のミニストーリーを追加しました。
山菜の天ぷらであれば、こう書きます。
地元の名人が、朝つゆの残る早朝に採取した山菜。
40年の経験で、一番美味しい瞬間を見極めて収穫しています。
苦みと甘みのバランスが絶妙です。
季節の野菜の炊き合わせであれば、こうです。
車で15分の有機農園で育てられた野菜。
料理長が自ら毎朝、市場で厳選し、
伝統的な炊き合わせの技法で野菜本来の甘みを引き出しています。
生産者や調理法の具体的なストーリーがあると、つい頼んでみたくなります。
書くときのコツは3つです。上の文例のどこがそれにあたるかを並べます。
| コツ | 文例の中の該当箇所 |
|---|---|
| 人の名前と年数を入れる | 「40年の経験」(「地元の農家」より伝わる) |
| 距離や時間を入れる | 「車で15分」「早朝」(鮮度を説明せずに伝える) |
| 味の特徴を一言で締める | 「苦みと甘みのバランス」(注文の理由が完成する) |
施策2|本日の地元食材ペアリング
その日の料理に合わせて、地酒や地ビールを提案します。
この地ビールは、地元の山系の湧水を使用し、地元の醸造家が丁寧に仕込んでいます。
他のビールに比べてまろやかな後味と甘みが特徴で、
本日の山菜料理との相性が抜群です。
普段口にしているものとの違いや、その日の料理との相性を語られると、
つい味わってみたくなります。
ドリンクは追加オーダーの中でも判断が早い項目です。
「本日の」とつけて日替わりにすると、常連の方にも毎回新しい提案ができます。
施策3|売店の陳列を、昨夜の体験と結びつける
夕食で提供した日持ちする地元食材の商品を、売店で売ります。
ただ並べるのではなく、体験と結びつけて提案します。
昨夜のお食事でお出しした味噌漬けに使った、3年熟成の地元味噌です。
前日の「美味しかった」という記憶が鮮明なうちに提案するので、
つい、お土産に選びたくなります。
売店は、宿の中で最後にもう一度、客単価を上げられる場所です。
ここが「観光地の一般的なお土産」で埋まっているなら、見直す価値があります。
結果|追加オーダー1.8倍、客単価は平均で約1,000円上昇
これらの施策の結果は、次の通りです。
一施設での、導入前と比べた変化です。
| 見た項目 | 変化 |
|---|---|
| 夕食時の単品追加オーダー率 | 1.8倍に増加 |
| お土産の地元食材商品の購入率 | 15%向上 |
| 客単価 | 平均で約1,000円上昇 |
この旅館は客室数が約20、平均稼働率60%です。その前提で計算すると、
月におよそ70万円、年間で約840万円の売上アップにあたります。
客単価は、数百円でも上がると年間の売上が大きく変わります。
そして重要なのは、これが
新メニューの開発費ゼロ、仕入れコストの追加ゼロ、手間ゼロで実現したということです。
ストーリーの伝え方を変えただけで、この変化が生まれています。
どの商品から始めるか
すべてを一度にやる必要はありません。優先順位は明確です。
日持ちする商品から始めてください。
地ビール、地酒、味噌や醤油などの調味料は、
食品ロスの心配が少なく、利益率も高いためです。
在庫リスクが小さいので、積極的にチャレンジしていい商品です。
逆に、傷みやすい生鮮品を最初に増やすと、売れなかったときの損失が読めません。
ストーリーは、宿泊プランの説明文にも効く
ここまでは館内での話ですが、同じ文章は、予約前の段階でも効きます。
実例の旅館の出発点を思い出してください。
プランの説明文が「地元の新鮮な野菜や漬物を使用」の一文だけだったことです。
じゃらんや楽天トラベルのプラン一覧では、同じような文言が延々と並びます。
「地元食材」「旬の味覚」「新鮮な海の幸」。どれも同じに見えるので、
結局は価格で比べられます。
ここに、生産者の名前と年数、距離、味の特徴が入るだけで、
一覧の中で明らかに毛色が変わります。
- プラン説明文の冒頭2〜3行に、代表的な1品のストーリーを入れる
- プラン名にも、その一品を入れる(「地元食材」より「40年の名人が採る山菜」)
- 料理写真のキャプションに、その料理のストーリーを1行入れる
- 公式サイトの料理ページにも、同じ文章を載せる
書く文章は1回作れば、全媒体で使い回せます。
一度作ったストーリーは、その食材を使い続ける限り資産として残るのも利点です。
よくある間違い
やりがちな失敗と、その代わりにどうするかです。
| よくある間違い | どうするか |
|---|---|
| 全品にストーリーをつける | どれも読まれない。3品までが現実的 |
| 長く書きすぎる | メニュー表で読まれるのは3〜4行まで |
| 抽象的な言葉で終わる | 「こだわりの」でなく数字と固有名詞を入れる |
| スタッフが読んでいない | 聞かれて答えられないと逆効果になる |
| 値上げとセットにする | 同時にやると何が効いたか分からなくなる |
| 生産者に断りなく実名を出す | 名前と写真は事前に許諾を取る |
明日から始める手順
着手する順番です。
| ステップ | やること |
|---|---|
| 1 | 夕食で使っている地元食材を10個書き出す |
| 2 | 生産者の顔が見える・調理法に特徴があるものを3つに絞る |
| 3 | 生産者に「何年やっているか」「こだわりを一言」を聞く |
| 4 | 3〜4行のミニストーリーを書き、単品メニュー表に入れる |
| 5 | 日持ちする商品を1つ選び、売店に札とともに置く |
| 6 | スタッフが口頭でも話せるよう、ミーティングで共有する |
| 7 | 1ヶ月後に単品追加オーダー率と売店の購入率を比べる |
ステップ3で聞いた話が、一番の素材になります。ステップ7は御施設の実数で比べてください。
最後の共有が抜けると効果が半減します。
メニューに書いてあることを、スタッフが自分の言葉で言えるかどうかが分かれ目です。
まとめ
- 客単価は、食材を変えなくても、伝え方だけで上げられる
- 売るのは地元食材そのものではなく、その食材に込められたストーリー
- 打ち手は3つ。メニューへの生産者ストーリー/本日のペアリング/売店を昨夜の体験と結びつける
- 始めるなら、日持ちして利益率の高い商品から。在庫リスクが小さい