旅館の差別化の方法|大型ホテルに勝つおもてなしの作り方
「うちのような中小旅館では、大型施設のような立派な設備やサービスは提供できない」
これは、多くの経営者・女将から日々いただく、切実なご相談です。
近隣に大きなホテルやチェーンができると、本当に不安になりますよね。
このままお客様が流れてしまうのではないか、何か対策しなければ、といろいろ考えてしまうと思います。
ですが、中小規模だからこその戦い方があります。
この記事では、その王道のやり方を、実例と手順で解説します。
大型施設と同じ土俵で戦わない
綺麗なほうがいい、設備がちゃんとしているほうがいい。
誰でも感覚的にそう思うので、つい大規模施設と同じ土俵で戦ってしまいがちです。
ですが、考えてみてください。
設備やサービスの豪華さだけでお客様の満足度が決まるなら、
全国の旅館ランキングは大型のチェーンホテルばかりになるはずです。
でも実際のランキングを見ると、口コミ評価が高いのはむしろ中小規模の旅館だったりします。
これが意味しているのは、
お客様が本当に求めているのは、必ずしも豪華な設備やサービスではないということです。
差別化の極意は「オーダーメイドのおもてなし」
よくある勘違いとして、
- 差別化するには大きな投資が必要だ
- 特別なサービスを新しく始めないといけない
という考えがあります。実際はそうではありません。
お客様が旅館に求めているのは、「自分を見てくれている」という感覚です。
大型施設では到底真似できない、一人ひとりに合わせた細やかな対応。
これこそが中小旅館の最大の武器です。
お客様は、自分のことを覚えてくれている宿、
自分だけに向けた心遣いを感じる宿に心を動かされます。
たとえば旅先で、
前回お食事の際は白ワインがお好みとおっしゃっていましたよね
お誕生日のお祝いに、地元の季節の花をご用意しました
こう言われたら、思わず笑顔になりませんか。
こうしたオーダーメイドこそが、大規模施設には真似できない中小旅館ならではの強みです。
しかも、大きな設備投資が要らず、今日から始められるものばかりです。
実例|手書きメモ+地元ハーブティー、1泊あたり40円
近隣に大手チェーンホテルが進出してきて悩んでいた、ある旅館の事例です。
きっかけは偶然でした。定例会議の際の、
**「お客様とスタッフが同じ地域の出身だと、話が盛り上がるんですよね」
「地元の商品とか、何かに使えないですかね」**という、なにげない会話です。
そこから、ひとつの施策を試すことにしました。
お客様一人ひとりへの手書きメモ + 地元のハーブティーです。
具体的な流れ
-
チェックインの際に、お客様の出身地をさりげなく伺い、宿泊者名簿にメモする
-
夕食後、お部屋の準備をするタイミングで、枕元に次の2つを置く
-
お客様の出身地の方言で一言添えたメモカード
-
地元で採れたハーブティー
方言の一言は、お客様の出身地に合わせて用意します。
関西から来られた方には関西の言い回しで、九州の方には九州の言い回しで、といった具合です。
言い回しは地域によって細かく異なるので、完璧さより「やってみた」という姿勢のほうが伝わります。
そこに、
「〇〇様の方言で書いてみましたが、合っていますかね? ごゆっくりおくつろぎくださいね」
と添えます。
「あのフロントの人が気を利かせてくれたんだ」と思っていただけますよね。
外国人のお客様にも同じことができる
外国人観光客には、母国語での挨拶カードを用意します。
訳はGoogle翻訳でも構いませんし、生成AIに聞けばすぐ出てきます。
海外からのお客様には「日本のおもてなしはすごい」と感動していただけます。
こんなことは、普通どこの宿もやっていないからです。
結果
この取り組みにかかるコストは、1泊あたりたった40円でした。
それでいて、効果は次の通りです。
- 翌朝の会話が弾むようになり、導入前と比べて物販購入率が12%上昇
- Googleマップの口コミ評価が0.5アップ
なぜこれほど効いたのか。理由ははっきりしています。
他の施設ではまずできない体験だったからです。
他がやっていないからこそ、記憶に残ります。
裏側の仕掛け|口コミ依頼とセットにする
もう一つ、この旅館がやっていたことがあります。
毎回チェックアウト時に、Googleマップの口コミ依頼をしていたのです。
すると何が起きるか。
お客様は、何か印象に残ったことから書こうとします。
その結果、「自然なおもてなしがすごかった」「思いがけない心遣いに驚いた」といった
肯定的な内容が自然と増えていきます。
つまり、おもてなしの施策と口コミ依頼はセットで初めて効きます。
どちらか片方だけでは、この結果にはなりません。
なぜ大手には真似できないのか
これは精神論ではなく、構造の話です。
- 大手ホテルでは、お客様一人ひとりに合わせた対応はオペレーション的に難しい
- 導入までに通さなければいけない部署が多い
- やるなら全国一斉になるため、こうしたちょっとしたアイデアは採用されにくい
小回りが利くからこそできるオーダーメイドのおもてなしが、巨大資本に立ち向かう鍵になります。
これは規模が小さいことの弱みではなく、そのまま強みです。
自館で始めるための手順
真似するのはメモとハーブティーそのものではありません。型のほうです。
1. 「聞く1項目」を決める
チェックイン時に自然に伺える項目を1つだけ決めます。
出身地、記念日、前回の来訪、好きな飲み物など。
多く聞かないのが続けるコツです。
2. 記録する場所を1か所に決める
宿泊者名簿でも予約管理システムのメモ欄でも構いません。
全員が同じ場所に書くことだけを守ります。ここがバラけると次回に活きません。
3. 返し方を、1泊数十円の範囲で決める
- 手書きの一言カード
- 地元の小さな品(お茶、菓子、季節の花)
- 出身地・記念日に合わせた一言
原価を先に決めてしまうと、現場が迷わず続けられます。
4. 口コミ依頼をチェックアウトの動線に組み込む
言うタイミングと言い方を決めて、全員が同じように言える状態にします。
これがないと、せっかくの体験が外に伝わりません。
5. 2つの数字だけ見る
- Googleマップの口コミ評価と件数
- 物販・館内消費の購入率(御施設の実数)
なぜ「安く」ないと続かないのか
この事例で本当に効いているのは、内容そのものよりも1泊40円という原価です。
差別化の施策が続かない理由は、たいてい次のどちらかです。
- 原価が高くて、繁忙期にやめてしまう
- 手間が大きくて、忙しい日にできない
一度でも「今日は忙しいからなし」が起きると、施策は事実上そこで終わります。
満室の日にもできる設計になっているかどうかが、続くかどうかの分かれ目です。
だから、始めるときの基準は次の2つです。
- 1泊あたりの原価を、先に上限として決める(数十円で十分に成立します)
- 1組あたりの作業を、1〜2分以内に収める
派手さより、全室・全日できることを優先してください。
自館に置き換えるときの考え方
事例をそのまま真似しても、うまくいかないことがあります。
再現すべきなのはメモとハーブティーではなく、次の3点セットです。
- お客様ごとに違う情報を1つ拾う
- その情報を使って、一言だけ返す
- その体験を、口コミとして外に出す導線を作る
この型に、自館にすでにあるものを差し込みます。
| すでに持っているもの | 差し込み方の例 |
|---|---|
| 地元の農産物・特産品 | 部屋に一言添えて置く |
| 常連客の記録 | 前回の好み・記念日にひとこと触れる |
| 女将・板前の得意分野 | 出身地や興味に合わせて話題を用意する |
| 周辺の見どころの知識 | 到着時刻・天候に合わせて手書きの案内を渡す |
| 外国語ができるスタッフ | 母国語の挨拶カードを用意する |
新しいサービスを作らない。 今あるものに、一人ひとり違う一言を足すだけです。
情報を「一度きり」で終わらせない
この施策の価値が本当に出るのは、2回目の来訪です。
初回に伺った出身地・好み・記念日を記録しておけば、
次にお越しになったときに「前回〇〇とおっしゃっていましたよね」が言えます。
ここまで来ると、他館に移る理由がなくなります。
そのために必要なのは、大がかりなシステムではありません。
- 記録する場所を1か所に決める(宿泊者名簿でも予約システムのメモ欄でも可)
- 書く項目を固定する(増やさない。1〜2項目で十分)
- チェックイン前に、その欄を見る習慣を作る
多くの宿でこれが機能しないのは、記録する場所がスタッフごとにバラバラだからです。
場所を1つに決めるだけで、蓄積が始まります。
よくある間違い
- 大型施設と設備で張り合おうとする。 投資額で勝てない土俵に上がってしまいます
- 全員に同じものを配る。 それは「オーダーメイド」ではなく備品です。一人ひとり違うから効きます
- 聞いた情報を記録しない。 二度目の来訪で活きなければ、価値は半分になります
- やりっぱなしで口コミにつなげない。 体験は外に出て初めて集客になります
- 凝った仕組みから始める。 続かないので、まず1泊数十円・一言カードから
まとめ
- お客様が求めているのは豪華さではなく、「自分を見てくれている」という感覚
- 中小旅館の武器は一人ひとりに合わせたオーダーメイドのおもてなし。大手は構造上できない
- 実例は手書きメモ+地元ハーブティーで1泊40円。物販購入率12%アップ、口コミ評価0.5アップ
- おもてなしは口コミ依頼とセットにして初めて集客につながる