旅館の客層の絞り方|理想の客層を決めると稼働率が上がる

宿の達人 編集部

「最近、予約が伸び悩んでいる」「周りの旅館と差別化するにはどうしたらいいのか」。
女将さんからいちばん多くいただくご相談です。

客室稼働率を上げるために、非常に重要な考え方がひとつだけあります。
今回ご紹介する旅館は、それを実践した結果、
1年で客室稼働率が常時80%を超えるようになりました。

重要な考え方は「理想のお客様を特定する」こと

答えを先に言います。
あなたの旅館にとっての理想のお客様を、明確に特定することです。

ご自身の宿が「誰に選ばれているか」を、きちんと分析できているでしょうか。

多くの方は「どんなお客様も大事にしたいから、種類を絞りたくない」と考えます。
その気持ちは自然です。ですが、実際の予約データを見ると、満足度はお客様ごとに全然違います。

  • あるお客様は「静かで落ち着ける」と喜び、別のお客様は「もっと賑やかな雰囲気が欲しかった」と残念がる
  • 「部屋からの眺めが最高」と評価する方がいる一方で、「アメニティが少ない」と不満を持つ方がいる

「一体、どのお客様を満足させるべきなのか」と迷いますよね。
実はこれこそが、理想のお客様を見つけるヒントです。

飲食店で考えると分かりやすくなります。
何でもある居酒屋より、「焼き鳥一筋30年」という専門店のほうが、焼き鳥好きからは圧倒的に支持されます。
そして店側も、焼き鳥好きに特化したメニューに集中できるので、仕入れが効率的になり、腕も上がる。
結果として満足度も上がる。この好循環が生まれます。

旅館もまったく同じです。
一定の層に特化することでサービスの質が上がり、さらに選ばれる好循環が生まれます。

実例|稼働率が40%まで落ちた旅館

歴史のある温泉旅館の事例です。

近隣に新しいホテルが次々とオープンし、客室稼働率は一時期40%まで下がっていました。
苦戦のなかで、打てる手は打っていました。

  • 高級感のある写真への変更
  • ファミリー向けプランの追加
  • TikTokやInstagramでの発信

それでも、客室稼働率に変化はなかったそうです。

そこで私たちがまず行ったのは、過去の予約データと口コミの徹底分析でした。
すると、意外な事実が浮かび上がります。

客室稼働率が下がり続ける一方で、特定の客層だけは継続的に高い満足度を示していたのです。
それが、遠方から来られる60代以上のご夫婦でした。

3つのステップで進めた改革

進めた順番と、それぞれで分かったことです。

ステップやったこと分かったこと
1口コミとアンケートを分析評価されていたのは設備ではなかった
2本当の強みを見つめ直す差別化点は「最新」でなく「伝統と本物の体験」
3その層に合わせて発信狙っていない層にも同じメッセージが届いた

ステップ1|「なぜ選ばれているのか」を徹底的に調べる

最初にやったのは、その層になぜ選ばれているのかの調査です。
口コミとアンケートを詳しく分析していくと、評価されていたものが、想定と違いました。

彼らが評価していたのは、旅館が力を入れていたモダンな設備ではありませんでした。

宿の想定と、口コミに実際に書かれていたことの対比です。

宿が力を入れていたものお客様が実際に評価していたもの
モダンな設備長く受け継がれてきた建物の風情
高級感のある見せ方女将さんとの会話
新しさ静かにゆっくり過ごせる環境

特に、朝の庭園散策や地元の歴史の話への言及が多く見られました。

ここが最初の分岐点です。
宿が「強み」と思って投資している場所と、お客様が実際に評価している場所は、しばしばずれています。
そのずれは、口コミの本文を読み込めば必ず出てきます。

ステップ2|本当の強みを、正直に見つめ直す

次に行ったのは、分析から見えてきた評価ポイントをもとに、
旅館の本当の強みを正直に見つめ直すことです。

この旅館では当初、「モダンで高級感のある旅館」を目指していました。
「とにかく高級っぽく見せたほうがいいのではないか」という思い込みがあったわけです。

ですが実際は、新しいホテルとの差別化ポイントは「最新」ではなく「伝統と本物の体験」にありました。

新しいホテルと同じ土俵で戦っていたことが、伸びなかった理由だったのです。

ステップ3|伝え方を、その層に合わせる

最後に取り組んだのは、「伝統と本物の体験」という強みを効果的に伝えるための発信方法の工夫です。

60代のお客様に向けて、

  • ラジオ番組への出演
  • 文化雑誌への小さな広告

を行いました。

そして、この過程で分かったことがあります。
伝統文化に関心の高い30代の女性グループや、静かな環境を求めるビジネス利用の方にも、同じメッセージが届いたのです。

ただし、すべての層に好かれようとはしませんでした。
まずはご年配のご夫婦への価値提供を徹底的に磨き、その他の層は自然に集まるのを待つアプローチを選びました。

象徴的だったのが、朝食の一本化

周辺の新しいホテルが豪華な夕食バイキングを売りにするなかで、
この旅館はあえて逆の発想で、地元の食材にこだわった和朝食に一本化しました。

当初は「競争に勝てないのではないか」と心配されました。
ですが本物志向の方々に強く響き、「こだわりの朝食」として評判になり、
SNSで写真が拡散されるという思わぬ効果
もありました。

結果的に、「静かな大人の時間」というコンセプトで、すべての接点を一貫してつなげることができたのです。

最も評価してくれている層への満足度を徹底的に上げ、その要素を他にも横展開する。
この方法で、改革から1年で平均客室稼働率が80%まで回復しました。

そしてこの事例で本当にすごいのは、稼働率そのものではありません。
リピーターが増えたことで、直接予約も増えました。
その結果OTA手数料が削減でき、旅館に残る利益は稼働率の上昇以上のインパクトになりました。

「絞る」とは、断ることではありません

ここで誤解されやすいのが、絞る=他のお客様をお断りするという受け取り方です。
そうではありません。

この旅館も、ファミリーのお客様を断ったわけではありません。
変えたのは、どの層に向けて磨き、どの層の言葉で語るかという優先順位です。

そして実際に起きたのは、客層が狭まることではなく、広がることでした。
「静かな大人の時間」という一貫したメッセージが、
伝統文化に関心のある30代の女性グループにも、静かな環境を求めるビジネス利用の方にも届いたからです。

理由は単純で、中途半端に全方位へ向けた宿は、誰の記憶にも残らないためです。
「誰のための宿か」がはっきりしている宿だけが、選ぶ理由を持ってもらえます。

自分の宿で始めるときの手順

同じことを御施設でやる場合、順番はこうなります。

ステップやること見るところ
1直近1〜2年の予約データを客層別に並べる年代・地域・人数構成・平日/休日・リピート回数
2口コミを評価の高い順に読む星4〜5の本文にだけ選ばれている理由がある
3繰り返し出てくる単語を数える「静か」「風情」「女将さん」など
4強みと宣伝内容のずれを突き合わせる公式サイト・OTA紹介文・写真の1枚目
5絞る前に、絞らない案を1つ残すまずは掲載内容と1プランで試す

ステップ1は御施設の実数を入れてください。低評価の分析は別の作業です。
ステップ4でずれていた場合、直す対象はサービスではなく掲載内容です。

よくある間違い

  • 「絞る=客数を減らす」と考える。 実際は逆で、

誰に向けているか分からない宿は、誰からも選ばれにくくなります

  • 決めた客層を、思い込みで決める。 「うちはファミリー向けのはず」ではなく、

満足度の実データから決めます

  • 打ち手を全部同時に走らせる。 写真変更・新プラン・SNSを一度に走らせると、

何が効いたか分からず、次の判断ができません

  • 強みを「新しさ」に寄せてしまう。 新しい施設と同じ土俵に乗った時点で、

設備投資の勝負になります

まとめ

  • 稼働率を上げる出発点は、最も満足している客層を実データから特定すること
  • 宿が強みだと思っている場所と、お客様が評価している場所はずれていることが多い
  • 一点に絞ると質が上がり、結果として他の層にも届く。リピーターが増えれば直接予約が増え、手数料も減る