旅館の採用|やめない人を採る紹介制度の作り方

宿の達人 編集部
  • せっかく採用した人が、すぐにやめてしまう
  • 採用活動に時間を取られて、本来のお客様サービスに集中できない

女将さんから、この2つは本当によく聞きます。

採用は、お客様のためになるわけでも、売上に直結するわけでもない。
それなのに膨大な時間と労力がかかります。

忙しい中で採用活動をして、やっと人が入っても教育が必要で、
ようやく一人前になったと思ったら「実は退職します」。またゼロからやり直し。
このいたちごっこが、女将さんの貴重な時間を奪っていきます。

特に離職は、時間と労力をかけた分だけ損失も大きい。
「あれだけ教えたのに」という、裏切られたような感覚すらあると思います。

だからこそ、長く働いてくれる人を採用したい。
この記事では、そのための制度そのものの中身をお話しします。

離職率を下げる最も確実な方法は「やめづらい人を採る」こと

対策には2方向あります。

  1. 入ったあとの環境を改善して、やめないようにする\
  2. そもそも、やめづらい人を採用する

1つ目は本質的で重要ですが、時間がかかります(こちらは記事B32で詳しく扱います)。
一方2つ目は、お金も時間もほとんどかけずに、明日から始められます。

採用に今の時間を奪われず、離職によって未来の時間も奪われない。
そうなれば、もっと大事な「お客様を喜ばせる仕事」に時間を使えます。

なぜ紹介採用が効くのか|離職原因の1位は人間関係

やめない人を採用する方法とは、ずばり知り合いからの紹介採用です。

つまり、今働いているスタッフが、自分の友人や知人に
「うちの旅館で一緒に働かない?」と声をかけてくれる状態を作る
ことです。

他業種ではリファラル採用と呼ばれ、すでに一般的な手法として定着しています。
富士通、トヨタ、freee、メルカリといった企業が実績を上げています。

理由は、離職原因の第1位にあります

離職の原因の第1位は、業種業界を問わず「人間関係」です。

どんなに給料を上げても、シフトを柔軟にしても、
職場の人間関係が悪ければ人はやめていきます。

反対に、職場の仲間との関係が良ければ、
少々の不満があっても踏みとどまってくれます。

仲が良ければ人はやめない。 非常にシンプルな原理です。

知り合いの紹介が優れているのは、最初から人間関係の土台ができていることです。
さらに、

  • 紹介者は自分の評判もかけているので、本当に良いと思える人しか紹介しない
  • 結果として、似たような感覚の人が集まる
  • 人間関係のいざこざが生まれにくく、雰囲気の良い職場につながる

この循環が、離職率の大幅な低下につながっていきます。

制度の中身|導入した2つの施策

ここからが本題です。実際に導入した制度を具体的に見ていきます。

事例は、ある温泉旅館です。
もともとスタッフ同士の仲が良く、働きやすい雰囲気でしたが、人手不足に悩まされていました。
規模も立地も特別ではなく、同じ悩みを抱えている旅館の多くに当てはまる状況だったとお考えください。

私たちが提案したのは、次の2つです。

制度1|友達紹介特典

  • 知り合いを紹介し、その方が3ヶ月以上勤務した場合、紹介者に2万円の特別ボーナス
  • 紹介された方にも、1万円の入社祝い金

金額そのものは、決して大きくありません。それでいいのです。

なぜ少額でも効くのか

意外と、みんな「いい職場だ」とは思っていても、きっかけがないと動いてくれません。

もともと買おうと思っていたものを後回しにしていて、
キャンペーンのときに思い切って購入した経験は、誰にでもあると思います。

それと同じで、金額は少なくてもいいので、友達を紹介するきっかけを作ってあげることが大切なのです。

設計するときのポイント

設計で外せない4点を、何のためにやるのかとあわせて整理します。

ポイントやることねらい・理由
支給条件「3ヶ月以上勤務した場合」を必ず付けるすぐ辞めた場合の空振りを防ぐ
支給対象紹介された側にも支給する紹介者だけだと「利用された」感が出る
ルール化就業規則に明記する条件と金額が曖昧だとあとで揉める
専門家確認税理士・社労士に必ず確認する賃金として扱われる可能性があるため

制度2|女将のPR動画

紹介制度をより効果的にするための2つ目が、女将さんのPR動画です。

この旅館の女将さんは、スタッフからの信頼が厚く、人柄が伝わりやすい方でした。
そこで、女将さん自らがスマホで撮影した、

  • 旅館内の様子
  • スタッフの雰囲気
  • 働く環境に関する簡潔な説明

こうした内容の動画を作り、スタッフに共有して、紹介時に使ってもらうようにしました。

なぜ動画なのか

本気度が伝わるからです。

「本当にこの職場を紹介したい」という気持ちは、文章では伝わりません。
そして、女将さんの人柄も伝わります。
つまり、その雰囲気を見て「いいな」と思った人しか来なくなるので、ミスマッチが減ります。

もう一点、現実的な効果があります。
知り合いの紹介は、面接で落としづらい。 しかも時間が取られるし、合わない方が来ても困ります。

事前に動画で雰囲気を伝えておけば、お互いにとってマッチするかどうかの判断材料になります。
つまり動画は、採用側を守る仕組みでもあるのです。

動画の強み

  • 他の旅館がほとんどやっていない。 そのまま大きな差別化になります
  • 一度作れば繰り返し使える。 最初の少しの手間だけで、次回以降の募集にも使えます

撮影・共有の具体的なやり方は、記事B33(スタッフ教育にかかる時間を減らす)と同じ要領です。
スマホ1台と、YouTubeの限定公開で完結します。

導入の結果

この2つの施策を組み合わせた結果、

  • 3ヶ月で4名の紹介があり、そのうち2名が採用に至りました
  • 採用関連コストの年間100万円ほどが不要になり、大幅なコスト削減につながりました
  • 何より、紹介で入った方は離職率が圧倒的に低く、長期的に見てお金も時間も節約できています

また、同じ方法を導入したある旅館では、
直近1年において離職率が30%減少しています。

導入の手順

  1. 今のスタッフの満足度を、ざっとでいいので把握する
     ※ 職場の雰囲気が悪い状態で紹介制度を始めても、誰も紹介してくれません。
      ここが弱い場合は、先に記事B32の内容から着手してください\
  2. 紹介ボーナスの金額・条件を決める(3ヶ月勤務条件、紹介者・被紹介者の両方)\
  3. 就業規則に記載し、税理士・社労士に確認する\
  4. 女将・支配人が、スマホでPR動画を撮る(館内、スタッフの雰囲気、働く環境)\
  5. 朝礼などで制度を説明し、動画をスタッフに共有する\
  6. 紹介が発生したら、必ず制度どおりに支給する(ここを渋ると、二度と紹介されません)

PR動画に入れる内容

「何を撮ればいいか分からない」という声をよくいただきます。
求人票に書けないことを入れるのが基本です。

入れる内容と、そのときの注意点を並べます。

入れる内容撮るときの注意
館内の様子お客様のいない時間帯に、バックヤードも含めて
スタッフが働いている雰囲気本人の同意を取ったうえで
どんな人と一緒に働くことになるのか顔ぶれが伝わるように
1日の流れ出勤から退勤まで、ざっくりで構わない
どんな旅館にしたいのか女将さん自身の言葉で

逆に、給与や休日などの条件は動画に入れないほうが無難です。
条件は変わりますし、変わったときに動画を撮り直すことになります。
条件は求人票、雰囲気は動画。この役割分担が続けやすい形です。

撮影・共有の手段は、スマホとYouTubeの限定公開で十分です。
一般公開にすると館内の様子が外部に出るため、必ず限定公開にしてください。

紹介が生まれやすい職場と、生まれない職場

同じ制度を入れても、結果は分かれます。分かれ目は制度ではなく現場の状態です。

見るところごとに、生まれる職場と生まれない職場を並べます。

見るところ紹介が生まれる職場生まれない職場
スタッフ同士の関係休憩時間に会話がある特定スタッフの言動に不満が溜まっている
女将・支配人の把握名前と状況を把握している直近1年の退職理由が分かっていない
制度を説明したときの反応辞めた人が悪い評判を広めていない「うちを紹介するのはちょっと」という空気

後者に心当たりがある場合、紹介制度を入れるのは早すぎます。
先に記事B32の内容、つまり本音を吸い上げて改善する運用から着手してください。
紹介制度は、職場の状態をそのまま増幅する装置です。良い職場なら効き、悪い職場では何も起きません。

よくある間違い

つまずき方と、その代わりにやることをまとめます。

よくある間違い何が起きるか代わりにやること
職場環境が悪いまま制度だけ入れる紹介が起きない(順番が逆)先に記事B32の運用から着手する
金額を高くしすぎる動機がお金になり「誰でもいい」になる金額は少額でよい。きっかけに徹する
支給条件を口約束で済ませる揉めた瞬間に制度が死ぬ就業規則に条件と金額を書く
紹介だからと面接を省略する合わない方でも断りにくくなる動画で雰囲気を伝え、面接はきちんと行う

まとめ

  • 離職原因の第1位は、業種を問わず人間関係。だから最初から関係の土台がある紹介採用が効く
  • 制度の中身は2つ。少額の紹介ボーナス(3ヶ月勤務条件つき)と、女将のPR動画
  • 金額は小さくてよい。必要なのは動機ではなく「きっかけ」
  • 動画はミスマッチを減らし、採用側も守る。 一度作れば使い回せる
  • 紹介ボーナスは賃金の扱いになり得るため、就業規則への記載と税理士・社労士への確認を必ず行う

制度を入れたあと、現場でどう運用して定着させるかは記事B32でお話しします。