旅館の集客をお客様に手伝ってもらう方法|フォトスポット
「SNSをやったほうがいいのは分かっているが、毎日投稿する時間がない」。
これは、規模の大小を問わず、ほとんどの宿の女将さん・支配人から出てくる言葉です。
ホームページのリニューアルにも、広告運用の専属スタッフにも、予算は割けない。
かといって何もしなければ埋もれていく。この記事は、その手前で止まっている宿の話です。
「毎日投稿しなければ」という思い込みを外す
SNS運用というと、多くの宿が次の3つを前提にしてしまいます。
- 毎日投稿しなければ意味がない
- きれいな写真を撮る技術が必要
- トレンドを常に追いかけないといけない
この3つを揃えようとするから、始める前に「無理だ」で終わるのです。
そして実際に始めた宿も、繁忙期に更新が止まり、そのまま放置されたアカウントが残ります。
ですが、そもそもの目的に立ち返ると、話が変わります。
SNSの目的は「認知を広めること」です。
認知が広まるのであれば、投稿するのが宿である必要はありません。
宣伝は、お客様にやってもらったほうが効く
思い出してみてください。SNSで「こんな場所があったんだ」という宿や飲食店を見つけたとき、
その投稿者は、その店の公式アカウントだったでしょうか。
ほとんどの場合、友人の何気ない投稿か、誰かが紹介した内容だったはずです。
人は、企業の広告よりも、実際に体験した人の声を信頼します。
宿が自分で「料理が自慢です」と言うより、
泊まった人が写真つきで「この料理がすごかった」と書いたほうが、圧倒的に伝わります。
さらに重要なのは、お客様が書いた投稿は消えずに残り続けるということです。
女将さんが何もしていない時間も、深夜も、繁忙期も、投稿は残って人の目に触れます。
自分の代わりに働き続ける、費用のかからない入口を増やしているのと同じことです。
つまり、宿がやるべきなのは「投稿すること」ではなく、
お客様が投稿したくなる状態を、館内に用意しておくことです。
実例|フォトスポットを3つ作っただけの温泉旅館
ある温泉旅館の事例です。
以前はSNS運用に悩んでいました。女将さん自身が毎日投稿しようとしたものの、
忙しさのあまり続かない。かといって専門のスタッフを雇う余裕もない。
そこで取り入れたのが、フォトスポット戦略でした。
1. 館内に、写真映えするスポットを3箇所つくる
この旅館が選んだのは次の3つです。
- 夕日が美しく見える縁側の一角
- 地元の伝統工芸品を飾ったコーナー
- 個室露天風呂からの景色がよく見える特等席
新しく何かを建てたわけではありません。
もともと館内にあった「いい場所」を、名前をつけて選び出しただけです。
選ぶときの基準は3つあります。館内を見て回るときは、この3点で候補をふるいにかけてください。
| 基準 | 見るところ | 落ちる例 |
|---|---|---|
| 背景がごちゃついていない | 写り込む範囲まで確認する | 貼り紙・段ボール・業務用什器 |
| 時間帯が決まっている | 案内できる時刻があるか | いつ行っても同じで案内できない |
| 立ち止まる理由がある | 座れる・待てる場所か | 通路の途中で人が止まらない |
2. チェックイン時に、一言そえて渡す
館内のフォトスポットマップを作り、チェックイン時に配布します。
そのとき、**「よろしければ、素敵な写真が撮れるスポットをご用意していますので、
ぜひお楽しみください」**と一言そえる。これだけです。
ここを「置いておくだけ」にすると、ほぼ見られません。
渡す動作と一言がセットで初めて機能します。
3. ハッシュタグは、看板に書いて置いておく
各スポットに、専用のハッシュタグを入れた小さな看板を設置しました。
口頭で「ハッシュタグをつけてください」とお願いすると押しつけがましくなりますが、
看板に書いてあれば、撮りたい人だけが自然に使います。
ハッシュタグは、施設名そのものより、
「施設名+その場所の名前」のように具体的にしたほうが、後から探しやすくなります。
4. 人が集まる理由を、スポットの前に作る
この旅館がうまかったのは、ここです。
看板の前に、無料でアイスを試食できる休憩スペースを設けました。
写真を撮るためだけに人は立ち止まりませんが、
アイスがあれば立ち止まります。立ち止まれば、そこで写真を撮ります。
しかもこれには副次的な効果がありました。
アイスの味を知ってもらう機会が増えたため、アイスの存在自体も口コミで広がり、
通常のアイス販売も増えるという一石二鳥の結果になったのです。
結果|直接予約が5%から15%へ
実施後わずか3ヶ月で、公式サイトからの直接予約が5%から15%に増加しました。
OTAに支払っていた送客手数料が、その増えた10ポイントぶんだけ不要になります。
その手数料が丸ごと利益として残るため、利益ベースで約10%の改善につながりました。
念のため前提を書いておくと、改善したのは売上ではなく利益のほうです。
効果の大きさは、もともとのOTA手数料率と、直接予約がどれだけ増えたかで変わります。
売上規模が同じでも、手数料率が低い宿では効果は小さくなります。
やったことは、最初にフォトスポットを決めて、小さな看板を作っただけです。
そのあとは、お客様が自然に宿の魅力を広げてくれるようになりました。
特に若い層を中心に、「せっかく旅行に来たのだから思い出を残したい」
「映える写真を撮りたい」というニーズは確実にあります。
そこにアイスのおまけがうまくはまった、という事例です。
投稿を、Googleマップの口コミにもつなげる
ここまでは主にSNSの話ですが、同じ仕組みはGoogleマップの口コミにもそのまま使えます。
SNSに投稿してくれるお客様は、すでに「発信してもいい」と思っている方です。
その方に口コミをお願いするのが、最も成功率が高い。
やり方はシンプルです。
- フォトスポットの看板に、Googleマップの口コミページへのQRコードを一緒に載せる
- チェックアウト時、写真を撮っていたお客様にだけ「よろしければご感想もいただけますか」と伝える
- お礼のメールやLINEに、口コミページのリンクを1つだけ入れる(複数入れると、どれも押されません)
ここで大事なのは、タイミングです。
チェックアウトの会計中は最も余裕がない時間帯なので、口頭で頼んでも刺さりません。
帰宅後、写真を見返すタイミングに届くメッセージのほうが、はるかに反応が良くなります。
SNSの投稿は流れていきますが、Googleマップの口コミは残り、検索結果に直接効きます。
両方に流れる導線を作っておくと、同じ手間で二重に効きます。
費用と手間を、先に見積もっておく
この施策の良いところは、投資額が読めることです。かかるのは主に次の3つです。
金額欄は空けてあるので、御施設の見積もりを書き込んでみてください。
| 費目 | 数量の考え方 | 御施設の金額 |
|---|---|---|
| 看板の制作費 | 3箇所ぶん。既製スタンドに印刷を貼るだけ | ( ) |
| マップの印刷費 | 客室数×稼働日数ぶん。片面カラー1枚 | ( ) |
| 立ち止まる理由を作る費用 | 実例ではアイス。ここだけ継続費用 | ( ) |
3つ目は「必ず必要」ではありませんが、あるとないとで滞在時間が変わります。
そして実例のように、その商品自体の売上につながることもあります。
おまけではなく、売っているものの試食の場として設計すると、費用の説明がつきます。
一方、かからない費用もはっきりしています。
撮影機材、編集ソフト、専属スタッフの人件費、広告費。これらはゼロです。
「SNSをやるなら専属の人が必要」という前提から始めると身動きが取れませんが、
この形なら、いまのスタッフのままで始められます。
明日から始めるための手順
上から順に進めれば立ち上がります。各ステップの「終わった」と言える状態も並べておきます。
| ステップ | やること | 完了の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 館内を一周して撮りたくなる場所を5つ書き出す | 多めに出せている |
| 2 | 背景がきれいで立ち止まれる場所を3つに絞る | 3箇所が確定している |
| 3 | 一番きれいな時間帯をスタッフで共有する | 夕日なら日没の何分前かまで言える |
| 4 | A5〜A4の小さな看板にハッシュタグを入れて置く | 3箇所すべてに設置済み |
| 5 | 1枚のマップにまとめ、一言そえて渡す | チェックイン時の動作に入っている |
| 6 | 月に一度ハッシュタグで検索し投稿数を数える | 御施設の実数が記録されている |
| 7 | 良い投稿は許可を取って公式サイトやGoogleマップに掲載 | 掲載までの窓口が決まっている |
最後の2つが抜けると、続いているかどうかが分からなくなります。
数えるところまでを仕組みに入れてください。
よくある間違い
5つのつまずきと、そのときどうするかを対にしておきます。
| よくある間違い | 起きること | こうする |
|---|---|---|
| フォトスポットを増やしすぎる | どこも印象に残らない | 3箇所で十分 |
| 「投稿してください」とお願いする | 投稿が宣伝になる | 看板を置いて選んでもらう |
| 割引と引き換えにする | 投稿の質と口コミの信頼性が落ちる | 見返りなしで自然に任せる |
| スタッフに共有していない | 聞かれて答えられずその場で終わる | 場所と時間帯を全員が言える状態に |
| 効果を測っていない | 続いているか分からなくなる | 投稿件数と直接予約比率だけは追う |
まとめ
- SNSの目的は認知を広げること。投稿するのが宿である必要はない
- 宿がやるのは投稿ではなく、お客様が投稿したくなる状態を館内に用意すること
- フォトスポット3箇所・マップ・ハッシュタグ看板・立ち止まる理由。この4点セットで始められる
- 効果は「投稿件数」と「直接予約の比率」で測る。感覚で判断しない