旅館でオーナーに提案が通らない理由|提案を通す3ステップ

宿の達人 編集部

女将さんから、こんなお悩みをよく聞きます。

「新しい企画を考えたのに、オーナーに全然理解してもらえない」
「何を提案しても、うちには必要ないの一点張り」

あるあるですよね。
宿のためにいいアイデアを考えたのに、最初から否定されるとモチベーションが下がります。

ですが実は、たったひとつの工夫でオーナーの心を動かし、提案を通せるようになるかもしれません。
この記事は、その工夫の話です。

この現象は、旅館だけの話ではありません

「社長に意見を聞いてもらえない」という現象は、私が働いていたIT業界でも日常茶飯事でした。

エンジニアだった頃、新しいシステム開発を提案すると、経営陣からはこう言われることが多々ありました。

「それって本当に必要? 今のままでも問題ないでしょう」

今考えれば当たり前なのですが、
「この機能があれば業務効率が上がります」と熱く語っても、「で、会社にとって何が嬉しいの」という話です。

しかし、言い方をこう変えた途端、相手のトーンが一変しました。

「この改善で、年間200万円の人件費削減になります」

提案者と決裁者は、見ている世界が違う

この経験から気づいたのは、提案する人と決裁する人では、見ている世界が違うということです。

旅館でも、まったく同じ構図があります。立場ごとに見ている指標を並べると、こうなります。

立場重視していること
女将・支配人お客様の満足度、スタッフの働きやすさ
オーナーかかるお金と儲かるお金

どちらが正しいという話ではありません。役割が違うので、見る指標が違うだけです。
そして、相手の指標に翻訳しないまま話すから、噛み合わないのです。

実例|インスタ映えスポットの提案が通った瞬間

ある旅館では、女将さんが若い客層向けのインスタ映えスポットの設置を提案したところ、
最初はオーナーに一蹴されてしまいました。

そこで、提案の仕方を変えました。

「インスタ映えスポットに30万円投資すれば、年間で約50万円の売上アップが見込めます」

こう言い換えたところ、オーナーの態度が一変したのです。

企画の中身は、何ひとつ変わっていません。伝え方だけを変えました。

この事例から学べることは何でしょうか。
それは、オーナーの関心は、すでにお金の出入りにあるということです。

これは旅館に限りません。日常でも同じです。
子どもが親に新しいゲーム機を買ってほしいとき、「みんな持ってるから」では説得力がありません。
ですが、「いい成績を取ったご褒美にしてほしい。これで勉強のモチベーションが上がる」と言えば、
親は教育投資という視点で検討することもあると思います。

つまり、オーナーに企画を通すコツは、
この企画にかかるコストと、期待できるリターンを、具体的な数字で示すこと。

かかるお金より、儲かるお金のほうが大きいこと。
これを明確に伝えれば、オーナーも前向きに検討せざるを得なくなります。

提案を数字に翻訳する3ステップ

3つのステップで何を出すのかを、インスタ映えスポットの例(説明用の仮の数字)で並べます。

ステップ出すもの例(仮の数字)
1かかる費用(初期+運用)設置費用とカメラマン役の人件費
2効果の金額換算年36件 × 部屋単価4万円 = 144万円
3投資回収期間30万円の投資を5ヶ月で回収

ステップ1|かかる費用を、細かく算出する

まず、あなたの企画にかかる費用を細かく出します。
初期費用だけでなく、運用費用も含めた総額です。

インスタ映えスポットなら、

  • 初期費用:設置にかかる費用
  • 運用費用:たとえばスタッフがカメラマン役をするなら、その人件費

ここで運用費用を落とすと、後から「話が違う」となり、次の提案が通らなくなります。
多めに見積もっておくほうが、結果的に信用されます。

ステップ2|予想される効果を、お金に換算する

その施策で得られる効果を、金額に直します。

たとえば、こういう組み立て方です。

  • よそでは、投稿10件で1件の新規予約が取れるらしい
  • うちの規模なら、頑張れば月30件投稿できる
  • ということは、月に3件の予約
  • 年間で36件。36件 × 部屋単価4万円 = 144万円の売上増になるかもしれない

数字はあくまで仮置きです。
ここで大事なのは、精度ではなく「金額に翻訳されていること」です。

ステップ3|投資回収期間を示す

最後に、投資を回収するまでの期間を明示します。

  • 仮に30万円の初期投資が必要だとしても、
  • 新規のお客様が15組増えれば、単純計算で30万円の利益が出る
  • 月に3組ずつ新規を増やしていけば、5ヶ月で元が取れて、その後はまるまる利益になる

こう伝えれば、オーナーも安心して決断できます。

そして、ここが最も大事な点です。
重要なのは、この計算が正しいかどうかではありません。相手を「聞く体制」にできているかどうかです。

多くの経営者の場合、数字を示して提案することで、話を聞いてくれる可能性はぐっと上がります。

提案書は、1枚で足ります

3ステップを踏まえると、提案書の形はほぼ決まります。長い資料は要りません。
A4で1枚、次の6行で足ります。

行書く内容
何をするか設備名・施策名だけを1行で
かかるお金初期費用 + 年間の運用費用 = 合計
儲かるお金年間の売上増またはコスト減。前提も1行で
回収までの期間何ヶ月で元が取れるか
やめる条件何ヶ月やって、何に届かなければ止めるか
今回決めてほしいこと実施の可否か、試験導入の可否かを明記

最後の1行が抜けている提案は、話し合いはできても決まりません。
「検討します」で終わる会話の多くは、何を決める場なのかが決まっていないことが原因です。

また、口頭だけで伝えるのは避けたほうが無難です。
数字は、書いてあるほうが検討されます。 その場で判断されなくても、
紙が残っていれば、後日オーナーが一人で読み返せます。

提案の前に用意しておくと強いもの

3ステップに加えて、次のものを添えると通りやすくなります。

  • やめる条件を先に書く。 「3ヶ月やって新規予約が◯件に届かなければ止めます」。

引き際が書いてある提案は、決裁者にとってリスクが小さくなります

  • 最小の規模で試す案を、同時に出す。 30万円の案と、

5万円で試す縮小版を並べて出すと、否決ではなく「まず小さいほうで」という結論になります

  • 比較対象を、いま払っている費用にする。 「新しい出費」ではなく

「いま払っている◯◯より安い」という形にすると、判断の土俵が変わります

  • 効果の測り方を、先に決めておく。 何をもって成功とするかが決まっていない提案は、

通っても次につながりません

数字が出せないときは、どうするか

「そもそも効果を数字にできない企画はどうするのか」という疑問が出てきます。
スタッフの休憩室の改善や、接客マニュアルの刷新などがこれにあたります。

その場合は、売上でなく、減るコストで語ります。
金額に直せるコストの例を挙げます。

コストの種類数字の出し方
採用にかかっている費用求人広告費、紹介料
教育にかかっている時間新人1人あたり何時間 × 時給
欠員が出た月の応援依頼外部への応援依頼の費用

離職が1人減れば、いくら浮くのか。 これは売上と同じくらい分かりやすい数字です。
(御施設の実数を入れてください)

それでも数字にならない場合は、「今すでに起きている損失」を書きます。
「この状態が続くと、何が失われるか」まで書けていれば、
少なくとも判断のテーブルには乗ります。

よくある間違い

  • 熱意と思いで押す。 通らない原因は企画の質ではなく、指標の不一致です
  • 効果を「満足度が上がります」で止める。 満足度は決裁者の指標ではありません。

リピート率、予約件数、単価まで翻訳します

  • 数字の精度にこだわりすぎて、提案しない。 目的は正確な予測ではなく、

話を聞いてもらう体制をつくることです

  • 費用を小さく見せる。 運用費を隠した提案は、一度は通っても信用を失います

まとめ

  • 提案が通らないのは企画が悪いからではなく、女将とオーナーで見ている指標が違うから
  • かかるお金・儲かるお金・回収までの期間の3つを数字にするだけで、反応は変わる
  • 数字の目的は正確さではなく、相手を聞く体制にすること