平日の空室対策|旅館がシニア層で稼働率を上げる方法
「週末は予約で埋まるけれど、平日がよくない」
「安くしても、若い人は平日に来てくれない」
「閑散期は客室稼働率が40%を切ってしまう」
これは、全国の旅館から本当によく聞く言葉です。
固定費はほとんど変わらないのに、収入だけが減る。 平日の空室は経営を直撃します。
じゃらんや楽天トラベルといったOTAに出稿していれば、
よほどのことがない限り週末の予約は入っていきます。
つまり、手を入れるべきなのは平日です。 この記事は、その一点に絞った話です。
大方針は「65歳以上のご年配層の積極的な受け入れ」
結論から言うと、平日の空室を埋める大方針は、ご年配層(おおむね65歳以上)を主役に据えることです。
「当たり前では」と思われるかもしれません。ですが、ここに大きなチャンスが眠っています。
なぜご年配層なのか。理由は明確です。
- 時間がある……平日に動ける
- 第二の人生として趣味を楽しむ段階にいる……旅行の優先度が高い
- 子育てが落ち着いてお金がある……値下げしなくても選ばれる
- 日本の人口構成そのものが、年配層に厚い……母数が違う
「うちは年配層が多いから若者を取りたい」は、いったん保留する
よく聞くのが、「うちは年配層の比率が高いので、若者層を取りに行きたい」という相談です。
これは一概には勧められません。
若い層で平日に時間があるのは、多くの場合、学生です。
時間はあっても、平日に旅館へ泊まる予算がある層は限られます。
つまり、平日の稼働率に対しては、若者層の獲得はあまり効きません。
もちろん、宿の単価によっては若い層に舵を切る選択肢は十分あり得ます。
ただ、平日を埋めるという目的に限れば、優先順位は下がるということです。
そして重要なのは、すでにご年配のリピーターがいるなら、
その層に刺さる魅力がすでに宿にあるということです。
これは弱みではなく、すでに検証済みの強みです。活かさない手はありません。
ポイントは「積極的な」受け入れです。今までと同じことを続けるのではなく、
そこにもっと寄せる、ということです。
実例|総額5万円の改修から始めた旅館
ある旅館の事例です。抱えていた悩みは次の2つでした。
- 平日の客室稼働率が30%を下回る
- 若い世代は、価格を下げても平日に来ない
そこで発想を転換し、平日に時間的余裕のある層を味方につける戦略に切り替えました。
この宿が実際にやったのは、次の5つだけです。
| 打ち手 | やったこと | 狙い |
|---|---|---|
| 設備 | 滑り止めスロープ・手すり3箇所(総額5万円) | 段差と階段の不安を消す |
| 広告の中身 | 「手すり完備」「温泉ウォーキング」 | 価格ではなく安全・健康を訴求 |
| 広告の出し方 | Google・Instagramで65歳以上+近隣エリア限定 | 費用を抑えて狙う層だけに届ける |
| 媒体の追加 | 地域のラジオ局にグループ旅行の広告 | 高齢者がよく接している場所で出す |
| プラン | 平日限定「シニアグループ割引」(3名以上) | 受け皿を作り1予約の売上を上げる |
以下、順に見ていきます。
1. バリアフリーは「大工事」ではなく数万円から
やったことは、とてもシンプルです。
- 玄関の段差に滑り止めスロープを設置……約2万円
- 館内の階段3箇所に手すりを設置……合計3万円
工事は半日で完了。総投資額は5万円です。
大規模改修も、補助金の申請待ちも必要ありませんでした。
ここで大事なのは、「不安をひとつ消す」だけで予約の判断は変わるということです。
段差と階段は、ご年配のグループ旅行で最初に確認される項目です。
2. 広告は「安全・健康」を前面に出す
次に、シニアグループ向けのWeb広告を出しました。訴求したのは価格ではありません。
- 手すり完備で、足腰にやさしい宿
- 旅行で健康に。温泉ウォーキングの旅
このように、安全と健康を全面に打ち出した画像広告にしました。
旅行雑誌は年々減っています。そうなると、ご年配層は新しい旅行先を探すこと自体が面倒になり、
毎年同じところに行きがちになります。
一方で、いまのシニア層はスマートフォンもインターネットも普通に使います。
探すのが面倒なだけで、届けば動く層なのです。
3. 年齢とエリアを絞って配信する
広告は、GoogleとInstagramで**「65歳以上の方におすすめ」と年齢を指定し、
近隣のエリアに限定して配信**しました。
Web広告は、年齢とエリアを限定して配信できます。
これを知らずに全国・全年齢に出している宿は少なくありません。
絞ったほうが、費用は圧倒的に抑えられます。
このケースはマイクロツーリズム狙いです。
遠方より近場のほうが移動の負担が少なく、平日に利用しやすいと考えたからです。
4. ラジオという、意外に効く媒体
さらに、地域のラジオ局にも広告を出しました。内容はグループ旅行に振り切っています。
「同窓会やサークル仲間との思い出づくり。シニアグループ旅行はここ一択」
ラジオは若者より高齢者のほうがよく聞いているというデータがあり、狙い通りの反響がありました。
媒体は、狙う層が実際に接している場所で選びます。
5. 平日限定の「シニアグループ割引」
あわせて、平日限定の特別プランを用意しました。
名称は「シニアグループ割引」。3名以上のグループ予約に特典をつけています。
グループを条件にすることで、1予約あたりの人数が増え、
1組の集客コストに対する売上が大きくなります。
結果|週平均2組の増加が、年間600万円に
これらの複合的な施策が、予想以上に効きました。
他の宿が「美しい景色」「絶品料理」で写真映えを狙い、若者層の獲得に奮闘しているなか、
「安全・安心・仲間との思い出づくり」を明確に打ち出している宿が、他になかったのです。
結果は、施策の実行から3ヶ月で、平日のシニア団体予約が週平均2組増加。
年間に換算すると約600万円の売上増につながりました。
広告費などを差し引いても、年間270万円ほどの純利益です。
さらに嬉しい変化として、「以前宿泊した友人から聞いて来ました」というお客様が増えました。
特別な集客施策をしなくても平日にお客様が途切れない、好循環が生まれています。
ご年配層は、時間に融通が効く/平日でも旅行できる/口コミの影響力が強いという
三拍子が揃った、平日にとって最高のお客様なのです。
この事例から取り出せる「型」
一つの旅館の成功談として読むと再現できません。型として抜き出すと、こうなります。
4段の順番と、それぞれが今回の事例でどう現れたかを並べます。
| 段 | やること | この事例では |
|---|---|---|
| 1. 設備 | 予約前の不安を最も安い方法で1つ消す | 段差にスロープ、階段に手すり |
| 2. 訴求 | 消したことを言葉にして表に出す | 「手すり完備」「足腰にやさしい宿」 |
| 3. 媒体 | 届く場所に、年齢とエリアを絞って出す | Google・Instagram・地元ラジオ |
| 4. プラン | 平日限定の受け皿を1本作る | 3名以上のシニアグループ割引 |
1. 不安をひとつ消す(設備)
狙う層が予約前に不安に思うことを、最も安い方法で1つだけ消す。
ご年配層なら段差と手すり。子連れなら子ども用の食器と椅子。
全部を揃える必要はありません。 一番大きい不安から潰します。
2. 消したことを、言葉にして出す(訴求)
直しただけでは伝わりません。
「手すり完備」「段差なし」のように、設備を言葉にして表に出す。
ここで、価格ではなく安心を売っている状態になります。
3. 届く場所に、絞って出す(媒体)
狙う層が実際に接している媒体を選び、年齢とエリアを絞る。
今回はGoogle・Instagram・地元ラジオでした。
全国・全年齢に出すより、圧倒的に安く済みます。
4. 受け皿を作る(プラン)
広告で来た人が予約できるプランを、平日限定で1本用意する。
グループ条件をつけると、1予約あたりの売上が上がります。
この4段は、狙う層がご年配層でなくても同じです。
家族層でも、若い層でも、女性グループでも、順番は変わりません。
大事なのは、なんとなくOTAに掲載しておくだけで終わらせないことです。
稼働率を上げる前に、平日と週末を分けて見る
一つ注意点があります。平日と週末を混ぜた「月間の稼働率」だけを見ていると、
どこに問題があるのかが分かりません。
数字の出方によって、疑うべき原因も打ち手も変わります。
| 数字の出方 | 読み取れること | 打ち手 |
|---|---|---|
| 週末は埋まるのに月間60% | 平日が30%台まで落ちている | この記事の打ち手が効く |
| 平日だけが低い | 客層と受け皿の問題 | この記事の打ち手が効く |
| 平日も週末も一様に低い | 客層の話ではない | 料金か掲載内容を見直す |
数字を分けて出すところから始めてください。
そのうえで、平日に来ているお客様の年代・人数構成まで見ると、
すでに来てくださっている層=伸ばすべき層が見えてきます。
自分の宿で始めるときのチェックリスト
上の型を、自分の宿で手を動かす順に並べ直したものです。
| 区分 | やること |
|---|---|
| 現状把握 | 直近1年の平日と週末の稼働率を分けて出す(御施設の実数) |
| 現状把握 | 予約データで平日客の年代と人数構成を確認する |
| 設備 | 玄関・階段・浴室の段差と手すりを写真に撮り不足を洗い出す |
| 訴求 | 改善内容を公式サイトとOTAの施設情報・写真に反映する |
| 媒体 | Google・Instagram広告を年齢とエリアを絞って少額から試す |
| プラン | 平日限定・3名以上のグループプランを1本作る |
| 測定 | 3ヶ月後に平日の組数と年代構成の変化を測る |
「訴求」の行は、直しても載っていなければ判断材料になりませんという意味です。
なお、設備を直したのに媒体の情報を更新していないのは、非常によくある取りこぼしです。
バリアフリー関連は、OTAの設備欄・Googleマップ・公式サイトの3箇所を必ず揃えてください。
まとめ
- 平日が埋まらない宿がまず狙うべきは、時間とお金に余裕のあるご年配層
- 値下げで若い層を呼んでも、平日の稼働率にはあまり効かない
- 打ち手は、小さなバリアフリー改修+年齢とエリアを絞った広告+平日限定のグループプラン
- 直したことを媒体側に反映するところまでが施策。ここが抜けると効果が出ない