旅館の外国人スタッフが動かない理由|すれ違う3つの場面
「外国人スタッフが思うように動いてくれない」。
女将さんから、いちばん多く聞くお悩みのひとつです。
そして多くの場合、注意しても直らない。
これは本人のやる気の問題ではなく、文化的なギャップが原因であることがほとんどです。
上っ面だけ注意しても、まず解決しません。
「なぜそうするのか」が抜けていると、人は動けない
想像してみてください。あなたが海外の会社で働いていて、
上司から「会議で自分の意見をもっと強く主張して」と言われたらどう感じるでしょうか。
「どれくらい強く言えばいいのか」「下っ端の自分が偉そうに意見していいのか」と戸惑うはずです。
控えめに伝えるのが美徳だと教えられてきた日本人にとって、かなり難しい指摘です。
そして、次の会議でもやはり発言できない。上司からまた同じことを言われる。
この悪循環が、まさに今、旅館の現場で起きていることです。
ところが、こう説明されたらどうでしょうか。
海外では、意見を言わない人は「存在しないのと同じ」と見なされる。
間違っていても発言すること自体が評価される文化なんです。
背景まで説明されると、「文化なら、次からは発言するしかない」と腹をくくれます。
納得したから動けるようになるのです。
外国人スタッフもまったく同じです。
注意はされたけれど「まあいっか」「なんだか腑に落ちない」で終わっている。
指摘されても、その重要度が理解できていないのです。
教えるべきは「業務手順」ではなく「文化と言葉」
どの旅館も、教えるのは業務手順です。配膳の順番、清掃のチェック項目、予約システムの操作。
しかし、業務手順は見ていればある程度できるようになります。
難しいのは、その手前にある文化と言葉のほうです。
そしてこの2つは、日本人スタッフには教える必要がないため、教えるという発想自体が生まれません。
まして旅館は、日本文化を究極的に突き詰めたような場所です。
海外の方から見れば、意味の分からないことだらけで当然なのです。
外国人スタッフの教育がうまくいっていない施設は、
ほぼ例外なく、この文化的な背景の説明が抜け落ちています。
以下、旅館の現場で実際にすれ違いが起きる3つの場面を挙げます。
場面1|先回りの気遣いが「余計なお世話」に見える
お客様が寒そうにしている。日本人スタッフなら「毛布をお持ちしましょうか」と自然に声をかけます。
ところが外国人スタッフは、「頼まれてもいないのに、押し付けではないか」と戸惑うことがあります。
背景には、「自分の問題は自分で解決するもの」という考え方があります。
他人の行動に口を出すことが、相手を尊重していないと受け取られる文化圏もあるのです。
つまり彼らは、気が利かないのではありません。気を利かせないことが礼儀だと思っているのです。
伝え方
- 「日本では、先回りして気遣うことが最高のおもてなしにあたる」と、価値観として明示する
- 「お客様は遠慮して言わないことが多い」という理由まで伝える。 ここが最大のポイントです
- 抽象的な説明では伝わらないので、具体的な場面をいくつも例示する
(寒そうにしている、荷物が多い、館内で立ち止まって迷っている、など)
こうした話は、業務の合間に立ち話で済ませても入っていきません。
面談の時間をきちんと確保して、腰を据えて話すのが結局は近道です。
場面2|曖昧な表現とストレートな表現のギャップ
「ちょっと検討します」「できるかもしれません」。
日本人にとっては当たり前の曖昧表現ですが、外国人スタッフには
「イエスなのかノーなのか、はっきりしてほしい」という不満の種になります。
曖昧な答えは、「逃げている」「信頼できない」と受け取られてしまうことがあるのです。
逆方向のすれ違いも起きます。
外国人スタッフのストレートな物言いが、日本人スタッフには
「失礼だ」「空気が読めない」と映る。どちらも悪くないのに、両方が不満を溜めます。
伝え方
まず、「日本では即答を避けることが丁寧さの表現である」という背景を説明します。
そのうえで有効なのが、曖昧表現の翻訳集を作ることです。
ある旅館では、旅館で実際に使う場面に応じて、単語帳のような対訳リストを作っていました。
| 日本語の言い方 | 実際の意味 |
|---|---|
| 検討します | 難しいと思います |
| 少々お待ちください | 5分ほどかかります |
| ちょっと難しいですね | できません |
一度作れば使い回せるのが、この方法の良いところです。
新しいスタッフが入るたびに、口頭で同じ説明を繰り返す必要がなくなります。
そして、日本人スタッフの側にも教えておくこと。
「外国人スタッフには、もう少し明確に伝えたほうがコミュニケーションがスムーズになる」
と一言共有しておくだけで、すれ違いは目に見えて減ります。
片側だけを直そうとしても、ギャップは埋まりません。
場面3|所作へのこだわりが理解できない
日本の旅館では、挨拶の仕方や言葉遣いが非常に細かく決められています。
外国人スタッフにとって、これが大きな壁になります。
- お辞儀の角度が浅い
- 立ち方に緊張感がない
こうした指摘は、理由が分からないまま言われると、ただ困惑するだけです。
ある旅館では、外国人スタッフが
「なぜ形だけを気にするのか。心がこもっていれば十分ではないか」という疑問を持っていたそうです。
これはもっともな疑問です。もともと日本のおもてなしに魅力を感じて来てくれている方はよいのですが、
多くの外国人スタッフは、この価値観の違いに戸惑います。
伝え方
「所作は品質の一部である」というプロフェッショナルの考え方として説明します。
精神論ではなく、具体的なメリットに翻訳するのがコツです。
- お客様は、細かい動きまで見ている
- 丁寧な所作が、お客様の安心感を生む
- 安心感が、口コミと再訪につながる
こう伝えると、「日本の伝統だから従え」ではなく「仕事に必要なスキル」として受け入れてもらいやすくなります。
説明は「動画」にして、繰り返しの手間をなくす
ここまでの3つは、いずれも言葉を尽くして説明する必要がある内容です。
ということは、スタッフが入れ替わるたびに同じ説明を繰り返すことになります。
そこで有効なのが、説明を動画コンテンツにまとめてしまうことです。
ある旅館では、これらの内容を動画にして、
外国人スタッフには入社時に最初に見てもらう運用にしています。
それだけで、スタッフの成長の初動がまったく違ってくるそうです。
- 女将さん・支配人が同じ話を何度もしなくて済む
- 説明の内容がブレない(人によって言うことが変わらない)
- 本人が、あとから何度でも見返せる
動画の作り方そのものは、記事B33(スタッフ教育にかかる時間を減らす)で詳しく扱っています。
スマホ1台で始められます。
伝えるときの共通の型
3つの場面を通して、伝え方には共通の型があります。次の4つを、この順番で話してください。
- 事実 … 「日本の旅館では、こうすることになっています」\
- 背景 … 「なぜなら、日本では〇〇が礼儀とされているからです」\
- 相手の文化との違い … 「あなたの国では逆に〇〇が丁寧ですよね。ここが違います」\
- 具体的なメリット … 「これをするとお客様が安心し、口コミにつながります」
多くの現場では、1だけを繰り返しています。 だから直りません。
2と3が抜けていると「理不尽な決まり」に見え、4が抜けていると「意味のない形式」に見えます。
そしてもう一点。相手の文化を否定しないこと。
「日本のほうが正しい」ではなく「日本ではこうする」と言い切る。
優劣の話にした瞬間、相手は納得ではなく我慢に切り替わります。
面談のときに聞くとよい質問
一方的に説明するだけでなく、相手側の違和感を吸い上げると精度が上がります。
- 「日本の旅館で、いちばん意味が分からないと感じることは何ですか」
- 「自分の国だったら違うやり方をする、と思う場面はありますか」
- 「注意されたけれど、理由が分からなかったことはありますか」
3つ目が特に重要です。 ここで出てきた項目が、
そのまままだ説明できていない文化のリストになります。
よくある間違い
- 注意する回数を増やす … 背景が理解できていないので、回数を増やしても変わりません
- 日本人スタッフと同じ研修だけで済ませる … 業務手順は共通でよいが、文化の説明は追加で必要です
- 「日本のやり方だから」で押し切る … 納得がないまま従わせても、退職の理由になります
- すれ違いを個人の性格の問題として扱う … 同じ国のスタッフが入るたび、同じことが起きます
まとめ
- 外国人スタッフが動かないのは能力の問題ではなく、指摘の重要度が理解できていないため
- 教えるべきは業務手順よりも文化と言葉。日本人には教える必要がないぶん、見落とされやすい
- 「先回りの気遣い」「曖昧な表現」「所作へのこだわり」の3場面は、背景と具体的メリットをセットで説明する
- 説明は動画に残せば繰り返しの手間が消える。これから採用する施設ほど、先に作っておく価値があります