旅館の外国人スタッフ教育|入社後に戦力化する3つのこと

宿の達人 編集部

外国人スタッフを採用したものの、うまくコミュニケーションが取れていない。
英語を話せるのは助かるけれど、それ以外の仕事が全然上達しない。

悪い人ではないのに、こちらの意図が伝わらない。

この記事は「入社後に戦力にする手順」の話です。
採用の判断材料は記事B27、辞めさせない採用の設計は記事B26に分けています。

前提|マネジメントは競争力そのものになりつつある

日々の忙しい業務の中で、外国人スタッフのマネジメントに十分な時間をかけられない。
これは本当によく分かります。教育の負担を考えると、どうすればいいか悩みます。

一方で、日本政府観光局(JNTO)の集計では2025年の訪日外国人旅行者数は42,683,600人
(約4,268万人/前年比+15.8%)と過去最高を更新し(2024年は36,870,148人)、
日本政府は
2030年に6,000万人
を目指すと発表しています。

インバウンド需要が増え続ける一方で、それに対応できる人材の確保と育成は年々難しくなっています。

外国人スタッフのマネジメントは「できたらいいこと」ではなく、旅館の競争力の源泉になりつつあるのです。

以下、現場で効いた3つの方法を順に整理します。

コツ1|「誰が・いつまでに・何を・どのように」を紙に書いて渡す

まずここからです。

指示は口頭で終わらせず、紙に書いて渡してください。

理由があります。「外国語副作用」という言葉があり、
母国語以外の言語で考えると、脳が余計な負担を抱えて思考力が落ちると言われています。

これは特定の人の問題ではなく、外国人スタッフに共通します。
言葉を自分の頭で整理する時間が必要なのです。

日本語で「あれ、お願いね」と言われた瞬間、頭の中では

  1. 音を聞き取る\
  2. 日本語として意味を組み立てる\
  3. 母国語に置き換えて理解する\
  4. 「あれ」が何かを推測する

という処理が同時に走っています。推測の部分が外れると、それがそのまま作業ミスになります。

書いて渡すときの型を4項目で整理すると、次のとおりです。

項目書き方避ける言い方
誰が本人の名前を書く「みんなで」
いつまでに時刻で書く「早めに」「手が空いたら」
何を対象を名詞で書く「あれ」「それ」
どのように手順と完了状態を書く「きれいに」

「どのように」は、「きれいに」ではなく「〇〇の状態になったら完了」と書きます。

まず大事なのは、言葉の壁が思った以上にハンディだということを、私たち側が理解して接することです。

コツ2|定期的に声をかけて、世間話をする

2つ目は、定期的に声をかけて世間話をすることです。

できれば最初は週に1回。慣れてきても月に1回はやりたいところです。

なぜ雑談が必要か

先ほどの通り、外国人スタッフは脳内での言語化が間に合わず、業務中はその場で聞けないことが多いのです。

慣れない土地、慣れない文化で頭がいっぱいになり、聞きたいことがあってもすぐに日本語に変換できません。

さらに、海外人材の方々は母国に家族や友人を置いて来日しているため、
常に寂しさ・孤独感との戦いです。

それに耐えられず、早期離職をして帰国してしまうスタッフもいます。

そして、現場では次の負のループが起きます。

  1. 外国人スタッフは日本語が不安なので、自分から話しかけない\
  2. 周りのスタッフはその様子を見て「寡黙なスタッフだ」と思い、あえて話しかけない\
  3. 孤独化に拍車がかかる

放っておくと必ずこうなります。 悪意は誰にもありません。だから仕組みが要るのです。

だからこそマネジメントは一度きりの指示ではなく、
こちらから定期的に「進み具合はどう?困っていない?」と確認する仕組みが不可欠です。

週に1回、30分でかまいません。 ちょっとした世間話の時間を設けてみてください。

実例|「掃除は自分の仕事じゃないと思っていました」

こういった会話をすると、意外なことが発覚するケースがよくあります。

とある旅館の外国人スタッフの話です。

彼女はフロントでの接客はいつも完璧なのに、客室の準備がとても雑でした。

なぜかと思って聞いてみたところ、

「私はフロントの仕事だけをするために来たので、掃除は自分の仕事じゃないと思っていました」

と、驚くほど率直に言われたそうです。

日本人の感覚からすると「そんなことある?」と思うかもしれません。
ですが、国によって仕事の分担の考え方はまったく違います。

日本では「何でもやる」働き方が当たり前でも、海外では役割分担が明確な場合もあります。

このような「まさかの認識のずれ」は、避けては通れないものです。
だからこそ、対話で確認することが大切なのです。

そして、「あなたにはこういうこともできるようになってほしい」ということも、
気軽な会話の中でしっかり伝えること。
ここまでがセットです。

※ なお、任せられる業務の範囲は在留資格によって異なります。
業務を増やす前に、入管の最新情報と専門家への確認を行ってください。

コツ3|ノウハウを動画として貯めていく

3つ目です。考えてみてください。
最近、何か新しいことを学ぶとき、どうやって学んでいますか。

そう、YouTubeなどの動画ですよね。

外国人スタッフの教育にも、この動画学習が圧倒的に効果的です。

やり方は驚くほど簡単

  • 夕食の料理の説明のポイント、接客時の注意点といった単位で切る
  • 3分以内の短い動画をスマホで撮影する
  • YouTubeに限定公開でアップロードする

これだけで、スタッフだけが見られる動画ライブラリーの完成です。

メリット1|一度作れば何度でも使える

新しい外国人スタッフが入社したとき、
今までなら女将さんやベテランスタッフが1から10まで教えなければなりませんでした。

動画ライブラリーがあれば、「この動画を見て覚えてきてね」で済みます。

メリット2|YouTubeの自動翻訳が使える

これが本当に素晴らしい点です。
日本語の動画でも、字幕を自動翻訳して外国人スタッフの母国語で見ることができます。

わざわざ多言語のマニュアルを作る必要がありません。

このやり方を導入した女将さんからは、
**「外国人スタッフが仕事に慣れるまでの時間が目に見えて早くなり、
私が1から教える時間も減って、だいぶ楽になった」**という声をいただいています。

動画でノウハウを貯めるのは、教える側にとっても学ぶ側にとっても大きな負担軽減になります。

なお、この「顔が出る短い動画を貯める」やり方は、
お客様向けの館内案内にもそのまま使えます(記事B24)。撮る手間を二度払う必要はありません。

動画ライブラリーの作り方(最初の1ヶ月)

  1. 教える回数が多い作業を10個書き出す(新人が必ずつまずくものから)\
  2. 1本3分以内に収まる粒度まで割る(収まらないなら分割する)\
  3. スマホで撮る。 編集はしない。撮り直しもしない\
  4. YouTubeに限定公開でアップし、リンクを一覧にまとめる\
  5. 新人には「見た動画にチェックを入れてもらう」(見たかどうかを可視化する)\
  6. 質問が出た箇所は、動画を撮り足す。ライブラリーは育てるもの

3つは、この順番でやる

3つのコツは独立していません。効く順番があります。

順番と、それぞれの段階で起きることを整理すると次のとおりです。

時期やることこの段階で起きること
1週目指示を紙に書いて渡す指示の曖昧さが消える
1ヶ月目週1回の雑談をシフトに書き込む認識のずれが表に出てくる
2〜3ヶ月目出てきた質問を動画にする現場で本当に必要な教材が残る

1週目|まず「紙で渡す」から始める
今日から無料でできます。指示を1件、紙に書いて渡すだけです。
ここを飛ばして動画から入ると、日々の指示は曖昧なままなので現場は変わりません。

1ヶ月目|週1回の雑談をシフトに書き込む
紙で指示が届くようになると、本人が質問できる余地が生まれます。
その質問を受ける場所として雑談の時間が要ります。
ここで「認識のずれ」が表に出てきます。

2〜3ヶ月目|出てきた質問を動画にする
何を動画にすべきかは、雑談で出た質問が教えてくれます。
先に動画を作ろうとすると、「たぶんこれが分からないだろう」という推測で作ることになり、
現場で本当につまずいている箇所を外します。

紙 → 対話 → 動画。 この順番だと、作った教材が必ず使われます。

よくある間違い

現場で起きやすい6つを、原因と打ち手で並べると次のとおりです。

よくある間違い何が起きているかどうする
口頭だけで指示する「分かりました」=「聞き取れました」のことがある紙に残す
完璧なマニュアルを目指す作り込むほど更新されなくなる3分のスマホ動画で十分
雑談を「余裕があるときに」必ず流れるシフトに書き込む
静かなスタッフを問題なしと見る負のループの2段目話しかけない=順調ではない
母国語で話すことを禁止する最初期は孤独感対策が優先禁止しない(記事B26)
本人の能力の問題として扱う多くは役割の認識のずれまず聞く

まとめ

  • 伝わらない原因の多くは能力ではなく伝え方。「誰が・いつまでに・何を・どのように」を紙で渡す
  • 週1回30分の雑談を仕組みにする。 「掃除は自分の仕事じゃないと思っていた」は雑談でしか出てこない
  • 3分のスマホ動画をYouTubeに限定公開で貯める。 自動翻訳で母国語のマニュアルになる
  • 業務範囲は在留資格に左右されるため、増やす前に入管の最新情報と専門家に確認する