旅館の外国人採用のメリット|宿が得る3つのもの
「最近、外国人のお客様が増えてきたが、何も対策できていない」
「英語ができるスタッフが退職してしまって、外国人のお客様への対応に困っている」
女将さんからよく伺う相談です。
もっとおもてなしできたはずなのに、と思う場面は少なくないと思います。
この記事は「採用するかどうかを判断するための材料」です。
辞めさせない採用の設計は記事B26、入社後の育て方は記事B28に分けています。
判断を先送りにしている間に、市場は動いている
とはいえ、日々の忙しい業務の中で外国人スタッフの採用に真剣に向き合えない、というのもよく分かります。
手続きや教育の負担を考えると、踏み出しにくい。
一方で、日本政府観光局(JNTO)の集計では、
2025年の訪日外国人旅行者数は42,683,600人(約4,268万人/前年比+15.8%)と過去最高を更新しました
(2024年は36,870,148人)。
そして日本政府は、2030年に6,000万人を目指すと発表しています。
今でも外国人のお客様は非常に多いのに、ここからさらに4割ほど増やそうという目標が置かれているのです。
この波に乗れるか、取り残されるか。今がまさに分岐点です。
外国人スタッフの採用は「あったらいいもの」ではなく、経営の必須条件になりつつあります。
以下、得られるメリットを3つに分けて整理します。全体像は次の通りです。
| メリット | 得られるもの |
|---|---|
| 1. 人手不足の解消 | 採用の対象が日本人以外にも広がる |
| 2. 外国人観光客の満足度 | 海外出身のスタッフだから出せる共感と安心 |
| 3. 海外マーケットへ攻める | 待つのではなく狙いに行く視点が持てる |

訪日外客数の推移
メリット1|深刻な人手不足が解消される
いちばん分かりやすいのがこれです。
採用の対象が日本人以外にも広がるため、人材不足の解消につながります。
ここで押さえておきたいのが、在留資格によって任せられる業務が違うという点です。
「技人国」ビザ
外国人スタッフの採用でよく使われる在留資格が、通称「技人国(ぎじんこく)」です。
「技術・人文知識・国際業務」の略で、
通訳、翻訳、フロント業務など、一定の専門性がある職種で外国人を雇用できる制度です。
このビザを使えば、日本語が堪能な外国人をフロントや接客の即戦力として雇用できます。
ただし、すべての業務に対応できるわけではありません。
清掃、配膳、ベッドメイクなど、いわゆる単純労働に該当する業務は対象外とされています。
「特定技能(宿泊)」
もし現場作業を含めて幅広く任せたい場合は、
「特定技能(宿泊)」という別の在留資格の対象になります。
どちらに当たるかは、任せたい業務の中身で決まります。
ここを曖昧にしたまま採用すると、後から「その仕事は任せられない」となりかねません。
本文でここまで触れた2つを並べると、次のようになります(可否の判断は下記の注意書きの通りです)。
| 在留資格 | 本文で触れた位置づけ |
|---|---|
| 技人国(技術・人文知識・国際業務) | 通訳・翻訳・フロントなど、一定の専門性がある職種での雇用に使われる制度。清掃・配膳・ベッドメイクなどの単純労働は対象外とされています |
| 特定技能(宿泊) | 現場作業を含めて幅広く任せたい場合に対象になる、別の在留資格 |
重要:在留資格の要件・手続き・任せられる業務の範囲は制度改正で変わります。
可否の判断は必ず、出入国在留管理庁の最新情報と専門家(行政書士・登録支援機関など)に確認してください。
この分野は専門でサポートしてくれる人材会社に相談するのも有効な方法です。
いずれにしても、外国人スタッフの雇用は単なる外国語対応ではなく、
人手不足を解消し、採用の選択肢を広げるための手段です。
メリット2|外国人観光客の満足度が上がる
海外のお客様のことは、海外出身のスタッフがいちばん理解できます。
面白いのは、そのお客様と出身国が違っても構わないということです。
「外国人から見た日本の驚きポイント」で会話が盛り上がるからです。
- 「私も日本に来たとき、トイレの機能にびっくりしました」
- 「最初は靴を脱ぐ文化に慣れていなかったんです」
こうした話を英語でできると、お客様との距離がぐっと縮まります。
この共感ポイントは、日本人スタッフには出せません。
さらに、実務面でも効きます。
- ハラル対応の食事についての案内
- ベジタリアン向けの情報
- 日本人には気づきにくい視点での不安の先回り
外国人スタッフだからこそ、お客様に安心を与えられる場面が確実にあります。
そして、その積み重ねは予約という形で返ってきます。
ある宿では、長期滞在で来られた外国人観光客が、あるスタッフをたいへん気に入られ、
そのお客様の紹介で、友人家族が半年後に泊まりに来てくれたそうです。
1組だけの話です。数字としては小さい。
ですが、日本人スタッフだけの体制ではなかなか起きないことでもあります。
こういう小さな積み重ねが、宿の評判を高めていきます。
メリット3|海外マーケットに攻め込める
これがいちばん見落とされているメリットです。
インバウンド対応が必要なことは、多くの宿が感じています。
ですから、「海外のお客様が来てしまった場合の対処」は用意している施設が多い。
そこで質問です。
積極的に海外のお客様を取りに行こうと思えていますか。
これまでは言葉の壁があって、能動的なアプローチができませんでした。
外国人スタッフがいれば、その壁がなくなります。
たとえば海外向けの広告やPRを考えるとき、日本人だけだと
「何をアピールすべきか分からない」ことが多いはずです。
外国人スタッフがいると、こうしたフィードバックが返ってきます。
- 「うちの国の人は、温泉より和食に興味がありそう」
- 「この写真だと何の建物か伝わらない」
- 「この説明は、海外の人には意味が分からない」
海外から見たときに、自館のどこが刺さるのか。
これは中にいる日本人だけでは分かりません。
お客様を待つのではなく、狙いに行く自信をつけられる。
これが外国人スタッフの隠れたメリットです。

どの市場から来ているか(2025年)
判断を「なんとなく」で終わらせない
3つのメリットは、そのままでは決裁の材料になりません。
自館の数字に翻訳してから判断してください。 見るのは次の3つです。右の欄は御施設の実数で埋めてください。
| 見る観点 | 確認する項目 | 御施設の数値 |
|---|---|---|
| 1. どれだけ取りこぼしているか | 外国人宿泊者の比率と過去1年の推移 | |
| 言語対応ができず受けられなかった問い合わせ件数 | ||
| 言葉の壁に触れた口コミの有無 | ||
| 2. 誰が負担を負っているか | 外国語対応が特定の1人に集中していないか | |
| その人が退職したら何が止まるか | ||
| 3. 採用したら何が増えるか | 受けられるようになる予約(断っていた分+取りに行ける分) | |
| 減る負担(フロントの残業、女将さんの臨時対応) | ||
| 増える負担(教育の時間、手続きの手間) |
「英語ができるスタッフが辞めて困っている」という相談は、実際に多くいただきます。
1人に依存している時点で、それはすでにリスクです。
そして増える負担を見ないと、現場が反発します。
メリットだけを並べて決めると、教育コストを誰も引き受けずに現場が疲弊します。
増える負担を先に見て、誰がどれだけ時間を出すかまで決めてから採用してください。
採用を判断する前のチェック項目
「メリットがあるから採る」ではなく、次を先に決めておくと判断が早くなります。
- 任せたい業務を具体的に書き出したか(フロントか、清掃・配膳を含むか)
→ ここで必要な在留資格が変わります。最初に決める項目です
- 自館の外国人宿泊比率と、主な出身国は把握しているか(御施設の実数)
- 語学対応を1人に集中させない体制が組めるか → 詳細は記事B26
- 同時に2名以上を採用できるか → 定着率が大きく変わります
- 入社後に教える人と、教材の用意があるか → 詳細は記事B28
- 在留資格・手続きについて相談できる専門家、または人材会社の当てがあるか
採用の入口には2つのルートがある
「採ると決めたが、どこから探せばいいか分からない」という声もよくいただきます。
大きく次の2つです。
| ルート | 内容 | 押さえる点 |
|---|---|---|
| 1. 人材紹介会社・登録支援機関 | 在留資格の手続きから入社後の支援まで相談できる | 最初の1人はここが現実的。費用の考え方(紹介手数料か月額の支援費か)を事前確認 |
| 2. 国内にいる人材に直接応募してもらう | 日本語学校・専門学校の卒業予定者、家族滞在から就労を希望する方など | 募集要項に「任せる業務」を具体的に書く。曖昧だと在留資格との整合が後から問題に |
どちらのルートでも、任せたい業務を先に確定させておくという点は変わりません。
繰り返しになりますが、要件の可否判断は入管の最新情報と専門家への確認が必要です。
よくある間違い
- 「英語対応要員」として採る
それだけの位置づけだと、通常業務の経験が積めず、本人も伸びず、結果として辞めます
- 在留資格を確認せずに業務を割り振る
「フロントで採ったのに清掃も頼む」は、資格の範囲を外れる可能性があります。必ず事前確認を
- 語学力の高さだけで選ぶ
現場で効くのは語学力よりも、同じ立場の仲間がいるかでした(記事B26)
- 来た人に対応するだけで終わる
メリット3の「攻める」側を使わないと、採用コストは回収しきれません
- 制度の情報を古いまま使う
在留資格の運用は変わります。最新情報を都度確認してください
まとめ
- 外国人スタッフの価値は語学対応ではなく、採用母集団の拡大・お客様の満足度・海外への攻めの3つ
- 任せたい業務によって必要な在留資格が変わる。 業務の書き出しが最初の作業
- 制度の可否は自己判断せず、入管の最新情報と専門家に確認する
- 採用を決めたら、次は定着の設計(記事B26)と育成の設計(記事B28)をセットで用意する