旅館のIT外注費を見直す方法|過払いを防ぐ3つの鉄則

宿の達人 編集部

「月々のデジタル関連費用が50万円を超えている」
「広告費を毎月20万円払っているのに、予約が増えている実感がない」

宿泊業の経営者・女将から、この2つは本当によく聞きます。
そして残念ながら、他の業界ではここまでの金額は当たり前ではありません。

この記事は、旅館・ホテルがデジタル外注で払いすぎないための、
現場で使える3つの鉄則をまとめたものです。

先に全体像を示すと、3つの鉄則はこう整理できます。

鉄則やること要注意のサイン
1. 相見積もり同じ条件で最低3社に聞く1社だけで決めている
2. 施策の理由を聞く何が変わるか、うちに必要かを確認「他の旅館もやっています」
3. 第三者に相談利害のない相手に見てもらう判断を業者だけに委ねている

なぜ宿泊業だけ、デジタル費用が高くなるのか

私たちが宿泊業界に関わるようになって最初に感じたのは、
宿泊業だけがデジタル分野で異常に足元を見られているという違和感でした。

理由ははっきりしています。買い手が中身を判断できない領域だからです。

料理、施設の修繕、接客。ここで手を抜けばお客様にすぐ伝わります。
だから業者も手を抜けません。ところがデジタルは違います。

  • その施策に本当に効果があるのか
  • 何をもって「効果があった」と言えるのか
  • その作業がどれくらい大変なのか

この3つが、発注する側からはまったく見えません。
見えないから、提示されたものを信じるしかなくなります。
そこに「旅館の方はITに詳しくないだろう」という前提が乗ると、価格は簡単に膨らみます。

実例:月50万円が、月20万円になった

私たちが担当したある旅館では、毎月50万円のデジタル関連費用を払っていました。
長年お世話になっているからと、疑ったことすらなかったそうです。

財務面から分析すると、施設の規模に対して外注費が明らかに高い。
そこで「これは何にかかっている費用なのか」を洗い出し、複数の別業者から見積もりを取りました。

  • 同じサービス内容で、月額40万円という提案が出てきた(この時点で月10万円、年120万円の差)
  • さらに、そこから不要なオプションを外して月額20万円まで下がった

金額の動き方を並べると、次のようになります。

段階月額当初との差
当初(長年の既存業者)50万円―
別業者から同内容で見積もり40万円月10万円/年120万円
不要なオプションを外した後20万円月30万円/年360万円

つまり、毎月30万円が、無駄あるいは意味のないオプションに消えていたことになります。
年額にすると360万円です。

その金額があれば、お客様に喜んでいただくサービスや設備投資に回せたはずのお金でした。
それが何年も続いていた、というのがこの話のいちばん重い部分です。

鉄則1|必ず複数社から見積もりを取る

旅館の改修工事なら、当たり前のように複数社から見積もりを取りますよね。
それなのにデジタル関連になると、1社で決めてしまう。 これがいちばん多いパターンです。

ある施設は、ホームページ制作を200万円で提案されていました。
別の2社に見積もりを取ったところ、同じ内容で75万円と65万円でした。

さらに、制作会社に頼むのではなく、Web技術に詳しいフリーランスに直接依頼すれば
30万円前後に収まる可能性もあります(規模と要件によります)。

同じものが3倍の価格で提案されうる、というのがこの領域の実態です。

相見積もりを取るときの手順

  • 今の契約書と請求書を、まず1枚にまとめる。 何の費用が、月いくら、何社に出ているか
  • 「同じ条件」で聞く。 ページ数、更新の頻度、写真撮影の有無、保守の範囲を先に文章にして各社に渡す
  • 最低3社に聞く。 2社だと、どちらが妥当かを判断できません
  • 既存業者にも同じ条件で出し直してもらう。 相見積もりを取ると伝えた時点で値段が動くこともあります

鉄則2|その施策をやる理由を、具体的に聞く

「SEO対策が必要です」
「Instagram運用が効果的です」
「リスティング広告をやりましょう」

こうした提案を受けたことはありませんか。
ほとんどの外注業者は、いろいろな施策とオプションを提案してきます。

ここでひとつ考えていただきたいことがあります。
外注業者の売上は、旅館が発注してくれる代行業務の数で決まります。
つまり業者にとって、旅館の利益は必ずしも最優先ではありません。
担当者が「コンサルタント」という肩書きでも、実態は営業であることが多いところです。
言われるままに契約を足していくと、外注費はどんどん膨らみます。

だから、提案を受けたら必ずこう聞いてください。

  • これをやると、具体的に何が変わるんですか
  • うちの旅館に、本当に必要ですか

提案の理由が「他の旅館さんもやっています」「業界の流行りです」だけなら要注意です。
それはあなたの施設についての説明になっていません。

判断できないときの、最低限のチェック

  • その施策の成果を、どの数字で見るのかが説明できるか(予約数、電話数、問い合わせ数など)
  • その数字は、契約前と契約後で比べられる形で残るのか
  • やめたときに何が止まるのかが説明できるか
  • 契約が自動更新かどうか、解約通知は何ヶ月前か

最後の項目は地味ですが効きます。不要になった契約が惰性で続いている、は非常によくあります。

鉄則3|ITやマーケティングに詳しい第三者に相談する

外注業者は、どうしても自社のサービスを売りたい立場です。
彼らに「このサービスは必要ですか」と聞いても、返ってくるのは
「基本は必要です」「やっているところが多いですね」です。

そして、これは別の業者に聞いても同じです。 彼らも自社サービスを売りたいからです。

そこで大事になるのが、そのサービスが入っても金銭的な得をしない第三者の意見です。
あるいは、完全成果報酬型など、施設の利益と方向が揃っている相手に相談することです。

ITやマーケティングに詳しい知人がいるなら、
見積もりの打ち合わせに同席してもらうだけでも状況は大きく変わります。
「専門的に分かる人が同席している」というだけで、提案の中身が変わることは珍しくありません。

先ほどの月50万円が月20万円になった事例も、外部の目が入って
提案されたオプションのうち、その施設に本当に必要なものだけに絞った結果です。

第三者の目が入ると、不要なオプションが落ちて、下位のプランで足りることが分かるケースが多いのです。

見直しに着手する順番

3つの鉄則は分かっても、実際にどこから手をつけるかで止まってしまう方が多いところです。
順番は決まっています。契約を切ることから始めないでください。

ステップ1|今払っている費用を、1枚の紙に並べる

提案を受けるより先に、現状を見える形にすることが先決です。
通帳・クレジットカードの明細・請求書を3ヶ月分そろえ、次を並べます。

  • サービス名 / 業者名
  • 月額(税込)と年額
  • 契約開始日(何年払い続けているか)
  • 直近3ヶ月で実際に行われた作業
  • その施策の成果を、どの数字で見ているか
  • 契約期間・自動更新の有無・解約通知の期限

ここで、最後の2列が埋まらない行が出てきます。それが見直しの最有力候補です。
経験上、この表を作った時点で「これ、まだ払っていたのか」という契約が必ず1つは出てきます。

ステップ2|止めても何も起きない契約から外す

いきなり主要な契約を切ると、集客が落ちるのが怖くて結局動けなくなります。
止めても何も止まらないものから外すのが安全です。

  • 使っていないオプション、追加機能
  • 更新されていないブログ・SNSの代行
  • 効果を説明できないまま続いている広告枠

この記事で触れた作業を、頻度と扱い方で並べると次のようになります。

作業の種類頻度自社でやるか外に出すか
ホームページ制作単発外に出す。同条件で最低3社に見積もり
ブログ・SNSの更新継続更新されていない代行は外す
広告運用継続成果を数字で説明できない枠は止める
オプション・追加機能継続使っていないものは外す
費用の一覧づくり見直しのとき自社でやる。提案を受けるより先

ステップ3|主要な契約は、切る前に相見積もりを取る

ホームページや予約まわりのように、止めると営業に影響する契約は、
必ず「乗り換え先が決まってから」動かします。
先に切ると、空白期間に売上を落とします。

ステップ4|次の契約からは、成果の定義を先に書く

新しく契約するときは、契約書を交わす前に一文を決めます。

「この施策は、〇〇という数字が〇〇になったら成功とする。数値は毎月共有する」

この一文があるだけで、翌年「効果が出ています」で終わる打ち合わせがなくなります。

交渉のときに使える言い方

関係を壊さずに聞くための言い回しをいくつか挙げておきます。
どれも相手を責めない形になっているのがポイントです。

言い方何のために聞くか
社内で費用を整理していまして、内訳をいただけますか相見積もりの前提を角を立てずに作る
このオプションを外した場合、何ができなくなりますか具体的な影響を言ってもらう
私も理解したいので、成果を数値で教えていただけますか相手の姿勢がはっきり分かる
同条件で他社にも見積もりをお願いしています伝えた時点で価格が動くことがある

よくある間違い

  • 「長年お願いしているから」で見直しをしない。 関係は続けたまま、中身だけ見直せます
  • 契約の一覧を作らないまま交渉に入る。 全体像がないと、削れる場所が見えません

まとめ

  • デジタルは買い手が中身を判断できない領域なので、宿泊業は価格を高く設定されやすい
  • 防ぐ手は3つ。相見積もりを取る/施策の理由を具体的に聞く/利害のない第三者に見てもらう
  • 実例では、月50万円のデジタル外注費が月20万円まで下がりました(年間360万円の差)
  • まず作るべきは提案書ではなく、今払っている費用の一覧表です