旅館のクレームを減らす方法|3ステップの対応マニュアル
この記事は、宿を経営する側(オーナー・女将・支配人)に向けて、
自館で起きるクレームそのものを減らし、悪い口コミにつなげない仕組みの作り方を書いたものです。
「隣の部屋がうるさくて眠れない」と怒りの電話をフロントで受けた時、
胸がぎゅっと締めつけられる感覚になりますよね。
問題のお客様を注意しに行かなければ。報告してくださったお客様に謝りに行かなければ。
そうして、少し慌ててしまう。
クレーム対応は、どうしても場当たり的になりがちです。
女将がいればまだいいのですが、深夜など女将不在時のクレームでは、現場はあたふたします。
そして翌朝、「昨夜、201号室のお客様からクレームがありまして」という引き継ぎを受けた女将さんは、
どんな気持ちになるでしょうか。
夜間スタッフはどう対応したのだろう。このままだと悪い口コミを書かれるかもしれない。
朝から不安になります。
クレーム対応は、ひとつ間違えるととんでもない悪評を書かれ、今後の集客に大きく影響します。
対応の引き出しが多ければ多いほど、大怪我のリスクは未然に抑えられます。
コツは「クレームを顧客満足度に変える策を、先に用意しておく」
大怪我をしないコツは、ひとつです。
誠意の伝わる対策をいくつか事前に用意しておき、段階的に小出しにしていくこと。
飲食店で考えると分かりやすくなります。
料理が遅れたとき、「申し訳ありません」と言われて終わりだと、なんとなく物足りない。
では、これならどうでしょうか。
- 「申し訳ありません。こちらの一品をサービスさせていただきます」
- 会計時に「今日は失礼しました。次回までに改善するので、ぜひまた食べに来てください。その時にこれを使ってください」と割引チケットを渡される
印象がまったく違いますよね。
最初は不満だったのに、段階的な対応で気持ちが変わり、
むしろ「なんだ、この店すごいかも」と感動に変わる瞬間すらあると思います。
これなら、口コミに「料理が遅かった」と不満を書く人は激減します。
お客様が見ているのは「それで、そちらは何をしてくれるのか」
ここが本質です。
お客様は実のところ、
「こちらは嫌な思いをしました。それで、そちらは何をしてくれるのですか」という対応を見ています。
そしてこの「何をしてくれるのか」の部分は、ある程度の決定権がある人でないと判断できないのが普通です。
ちょっとしたお詫びの品で解決できたことも、一般のスタッフではお金が絡むので対応できない。
そうしてクレーム対応で最も重要な初動に失敗し、
「自分は軽く見られている」とお客様の怒りが増幅していきます。
だからこそ、女将の不在時でも、誰でも対応できるステップを事前に用意しておくことが大切です。
そしてマニュアル化しておけば、対応に問題があったのか、お客様の度が過ぎていたのか、
という問題の切り分けもできるようになります。
スタッフ全員が同じ高品質な対応をできるようになれば、
クレーム発生時の混乱は少なくなり、女将さんの精神的な負担も大きく軽減されます。
実例|深夜の騒音クレームを、3ステップのマニュアルにした
ある旅館では、シーズンによっては深夜の騒音クレームが月に平均5件発生していました。
そのうち1〜2件はGoogleマップの口コミにも書かれてしまい、集客にも影響しかねない状況でした。
そこで導入したのが、3ステップ対応マニュアルです。
最初に行ったのは、よくあるクレームの類型化でした。
そして類型ごとに、決まった台本を用意しました。
深夜の騒音クレームの場合は、次のようになります。3つのステップの全体像です。
| ステップ | タイミング | やること |
|---|---|---|
| 1 権限付与 | その場 | 1,000円相当までのサービスを全スタッフの判断で提供 |
| 2 翌朝の一手 | 翌朝 | 特別朝食をサプライズでお届け(原価340円程度) |
| 3 次回への橋渡し | チェックアウト時 | 次回20%割引を手書きのひとことと一緒に渡す |
ステップ1|権限付与(その場で動けるようにする)
マニュアルに、こう明記します。
「すべてのスタッフには、お客様に対して1,000円相当までのサービス提供権限があります」
たとえば、
- 「何かお飲み物をお持ちしましょうか」
- 「館内ではリラックス効果のあるハーブティーをご用意しています」
といった具合に、すぐに何かアクションを起こせる権限を、全スタッフに与えました。
金額の上限を先に決めておくことが要点です。
上限が明記されていれば、深夜でも誰かに確認を取らずに動けます。
ステップ2|翌朝のサプライズ対応
騒音クレームのあった客室には、翌朝、
地元産のフルーツジュースを添えた特別朝食を、サプライズでお届けしました。
こちらは原価340円程度です。
金額の話ではなく、「昨夜のことを、こちらは覚えています」と伝わることに意味があります。
ステップ3|次回利用への橋渡し
チェックアウト時に次回20%割引をお渡しし、
「昨夜はご迷惑をおかけしました。必ず改善してまいりますので、またお迎えする機会をください」
と手書きで添えます。 これで、昨夜の件に対する誠意が伝わります。
導入して、何が変わったか
この対応を導入した結果、
クレームを起因とするGoogleマップの低評価が抑えられるようになりました。
さらに、「隣がうるさかったが、その後の対応が良かった」という星4以上の口コミも数件いただいています。
そもそも、隣の客がうるさいことは旅館のせいではありません。
その点はお客様も分かってくださるので、
やはり、起きてしまった問題に対する対応のほうが大事ということです。
そして、全スタッフが同じ対応をできるようにしたことで、翌朝の引き継ぎもスムーズになりました。
「昨夜、201号室のお客様から騒音のクレームがありました。マニュアル通り対応し、
今朝は特別朝食セットをお届けしてあります」
こういう引き継ぎであれば、女将さんも安心できます。
自分の宿で作るときの手順
作る順番と、どこまでできたら次に進めるかを並べます。
| 手順 | やること | 完了の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 過去1年のクレームを書き出し、類型に分ける | 上位3つの類型が見えている |
| 2 | 類型ごとにステップ1〜3の中身を決める | 各段階の担当と中身が決まっている |
| 3 | 金額の上限と原価を数字で書く | 「適宜」という表現が残っていない |
| 4 | 夜勤者が1人で実行できるか確認する | 1人で持ち出せない備品が前提になっていない |
| 5 | 引き継ぎの書式をマニュアルと同じ構成にする | 「何が起き、どこまで実施したか」が書ける |
類型は騒音、設備の不具合、料理、接客、チェックイン待ちあたりで、上位3つで大半を占めます
(御施設の実数を数えてください)。「適宜」と書いた瞬間に、現場は動けなくなります。
引き継ぎは「何が起き、どのステップまで実施したか」の2点で足ります。
なぜ「段階を踏む」ことが効くのか
3ステップの本当の効果は、金額ではなく回数にあります。
接点の回数によって、お客様に残る記憶がどう変わるかを並べると次のようになります。
| 誠意の届け方 | お客様に残りやすい記憶 |
|---|---|
| 一度の謝罪で終える | 「その場をしのがれた」 |
| その夜・翌朝・チェックアウト時の3回 | 「昨夜のことをずっと気にしてくれていた」 |
一度の謝罪で終わると、お客様にとっては「その場をしのがれた」という記憶になります。
ところが、その夜・翌朝・チェックアウト時と3回にわたって誠意が届くと、
「この宿は、昨夜のことをずっと気にしてくれていた」という記憶に変わります。
同じ費用をかけるにしても、一度に大きく渡すより、3回に分けて渡すほうが伝わるのはこのためです。
そして、この3回は口コミが書かれるタイミングの前に配置されています。
多くのお客様が口コミを書くのは、チェックアウトの後です。
その前に3回の接点をつくれるかどうかが、星の数を分けます。
よくある間違い
- 謝罪の言葉だけで終える。 お客様が見ているのは「それで何をしてくれるのか」です
- 上長への確認を必須にする。 深夜に確認先がいない時間帯こそ、事故が起きます
- 金額を大きくすれば解決すると考える。 事例の朝食は原価340円です。
効くのは金額ではなく、段階を踏んでいることです
- お客様側に非がある場合まで、同じ対応をする。 マニュアルがあると、
対応の問題か、度が過ぎた要求かの切り分けができるようになります
まとめ
- クレーム対応の失敗は、初動でその場で動けないことから起きる
- 金額上限つきの権限・翌朝の一手・次回への橋渡しの3段階を、先にマニュアルにしておく
- マニュアル化は、悪い口コミを防ぐだけでなく、引き継ぎと女将の精神的負担も軽くする