旅館のフロント業務の効率化|チェックイン渋滞をQRコードで解消

宿の達人 編集部

この記事は、旅館を運営する側に向けた「フロント業務の効率化・人手不足対策」の話です。

チェックインのピーク時間に、フロントに列ができる。
丁寧に館内をご説明しているのに、どうも聞かれていない気がする。
外国人のお客様には言葉の壁もあって、1組で20分近くかかってしまうこともある。

旅館の現場で、いちばん静かに人手と時間を奪っているのがこの場面です。
この記事では、フロントの説明時間とピーク時の必要人員を減らした実例と、
同じことを自館でやるための手順を整理します。

チェックイン渋滞は「宿が大変」で終わらない

多くの宿では、チェックインの混雑は「仕方のないもの」として扱われています。
実際、一時的な混雑があっても運営は回ります。

ですが、困っているのは宿だけではありません。

  • 長距離を移動して、やっと休めると思ったところでチェックインラッシュに並ぶ
  • そのあとに予定(夕食時間、外湯めぐり、送迎)が入っているお客様は、待ち時間がそのまま予定を圧迫する
  • 結果として、到着直後の第一印象が「待たされた」になる

そして最悪の場合、「チェックインが遅い」という口コミにつながります。
設備でも料理でもなく、最初の10分で評価が決まってしまうのは、あまりに惜しい話です。

逆に、ここのピークが消えると効果は現場全体に及びます。
オーナーや女将が臨時でフロントに入る必要がなくなり、管理者にしかできない業務に戻れるからです。

そもそも、館内案内はあまり聞かれていない

前提として押さえておきたいことがあります。

お客様は、チェックイン時の説明をそれほど正確には聞いていません。

暖簾をくぐった瞬間の雰囲気に気持ちが高ぶっていて、
「早く部屋に行きたい」「お風呂はどんな感じだろう」で頭がいっぱいです。

その状態のお客様に、
「お食事は2階のレストランで、朝食は7時から9時までとなっております」
と丁寧にご説明しても、目線はすでに廊下の奥を向いています。

むしろ「早く案内してほしい」と内心思っているお客様も、かなりの数いらっしゃいます。

つまりここは、サービスの質を落とさずに短くできる数少ない場面なのです。

打ち手は「完全自動化」ではなく「半セルフ化」

解決策は、半セルフ化です。
すべてを自動化するのではなく、できるところだけをデジタルで補うという考え方です。

無人受付にする、という話ではありません。イメージはこうです。

身近な半セルフ化の例で「お客様が自分でやる部分」と「人が残る部分」を分けたものです。

例お客様が自分でやる人が担う
ホテルの自動チェックイン端末自分で入力する困ったらコンシェルジュがすぐ助ける
カフェのタブレット注文注文を自分でする料理はスタッフが笑顔で運ぶ

人の温かみをあえて残す。 これが半セルフ化の要点です。
質を落として楽をするのではなく、お客様にとってもスタッフにとってもこのほうが良いという状態を作ります。

ここを完全自動化に振り切ると、たとえば配膳ロボットが音楽を流しながら料理を運んでくるような形になります。
「おもてなし」を価値にしている旅館の雰囲気には、さすがに合わないかもしれません。
負担に感じないお客様が一定数いるなら、その層にだけ選択肢を出す。これが現実的な落とし所です。

実例|ある旅館が館内案内を4ヶ国語のQRコードにした

ある旅館の取り組みです。客室数の多い旅館で、チェックインが特定の時間帯に集中していました。

この宿では、フロントスタッフが館内の説明をとても丁寧に行っていました。
お風呂の場所、食事の場所、アメニティの使い方。親切な説明ですが、1組あたり平均5分かかっていました。

ピーク時には多くのお客様が同時にチェックインするため、順番をお待ちいただく状況が発生します。
さらに外国人のお客様には英語でご説明していましたが、時間がかかるうえに、うまく伝わらないもどかしさもあったそうです。

1. 館内案内を4ヶ国語でデジタル化した

導入したのは、日本語・英語・中国語・韓国語の4ヶ国語に対応したQRコードシステムです。

  • 館内のご案内を4ヶ国語でデジタル化する
  • チェックイン時、カードキーと一緒に、QRコード入りの館内マップカードをお渡しする
  • カードには大きめのQRコードと簡単な使い方を印刷しておく
  • フロントでは「このQRコードを読み取ると館内のご案内がご覧いただけます」と一言添えるだけ

ご高齢の方や、スマートフォンをお持ちでないお客様には、従来通り口頭で丁寧にご説明します。

この方法のポイントは、強制ではなく選択肢として提供することです。
「全員にこれで済ませる」ではなく、「使いたい人は使える」にするから、現場の抵抗も苦情も出ません。

2. 女将が館内を案内する動画を撮った

もうひとつの工夫が、女将さん自ら館内を案内する様子を撮影したことです。

最初は「業務的な説明動画なんて誰も見ないのでは」という心配があったそうです。
それはその通りで、教習所のオリエンテーション動画のように機械的に読み上げられるだけの映像を、
好んで見る人はいません。

そこで形式を変えました。「うちの名物女将が楽しく解説しています」という形です。

「こちらが自慢の温泉の露天風呂です。お湯の温度は42度で、お肌がすべすべになりますよ」

女将さん自身が笑顔で案内する姿は、親しみやすく、つい見てしまいます。

さらに、この動画をYouTubeにアップロードしておけば、
海外のお客様は翻訳機能を使って母国語の字幕で見ることができます。

そして案内の文言も変えました。
「館内のご案内」ではなく、「名物女将による館内のご案内がご覧いただけます」。
言葉を少し変えただけで、閲覧率がぐっと上がったそうです。

3. 結果

この施設で、導入の前後がどう変わったかです。

項目導入前導入後
フロントでの説明時間1組あたり5分1組あたり2分
ピーク時のフロント人員3人2人
チェックイン渋滞発生していた解消し満足度も向上

そして何より、女将さんから「臨時でフロント対応する時間が減った分、1日がすごく楽になった」という声が出ています。

自館で始めるときの手順

いきなりシステムを買う必要はありません。順番は次の通りです。

  1. いま何分かかっているかを測る(1組あたりの説明時間。数日分の平均でよい/御施設の実数)\
  2. 説明内容を「必ず口頭で言うこと」と「渡せば済むこと」に仕分ける(下表)\
  3. 渡せば済むほうを1枚のページにまとめる(自社サイトの下層ページで十分。専用システムは後で構わない)\
  4. QRコードを作り、マップカードに印刷する\
  5. スマホで3〜5分の館内案内動画を撮る(女将・スタッフが顔を出す形式にする)\
  6. YouTubeに限定公開または通常公開でアップし、QRの遷移先に載せる\
  7. 1ヶ月後、もう一度説明時間を測る

手順2の仕分けの目安です。口頭に残すものと、QRで渡して済むものを分けます。

区分該当する説明の例
口頭に残す緊急時の避難経路、当日の食事時間の個別確認、館内での注意事項
渡せば済む大浴場の場所と営業時間、アメニティの場所、Wi-Fiの接続方法、朝食会場

多言語化は、まず自館に多い国から1言語ずつでかまいません。
最初から4ヶ国語を揃えようとして止まってしまうのが、いちばんもったいないパターンです。

現場から出る反対意見への答え

この施策は、たいてい現場から次の反対が出ます。先に答えを用意しておいてください。

「おもてなしが機械的になる」
半セルフ化は、説明を減らして接客を増やすやり方です。
5分を2分にして浮いた3分を、お客様の名前を呼ぶ・当日の過ごし方を伺うといった
その宿にしかできない会話に回すという説明をします。

「高齢のお客様が使えない」
使えない方には従来通り口頭でご説明します。全員に強制しないことが前提です。
使える方が半分でも、その半分の時間が浮きます。

「動画に出るのが恥ずかしい」
上手に話す必要はありません。閲覧率を押し上げたのは話の上手さではなく、その宿の人が出ていることでした。

「作っても更新できない」
だからこそ編集しない・3分以内・スマホで撮るという形にします。作り込むほど更新されなくなります。

よくある間違い

やりがちな失敗と、その代わりにどうするかの対応表です。

よくある間違い何が起きるかこうする
全員にQRだけ渡し口頭説明を廃止不親切になり評価が下がる「選べる状態」を残す
PDFをそのままQRの遷移先に文字が小さく拡大しないと読めないスマホで読める形のページにする
ナレーション読み上げの動画見られない宿の人が顔を出して話す
カードのQRが小さい読み取れず「使えなかった」で終わるカード上で大きく取る
効果を測らない「変わった気がしない」で元に戻る導入前後で説明時間を測る

まとめ

  • チェックイン渋滞は宿の負担であると同時に、第一印象と口コミを直接下げる要因
  • 打ち手は完全自動化ではなく、人の対応を残したままの「半セルフ化」
  • 多言語QRの館内案内+顔の見える案内動画で、説明時間とピーク人員の両方を減らせる
  • 導入前後で説明時間を測ること。数字がないと現場は元に戻る